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2021.03.05 安全保障

国際決済銀行に中国の影は忍び寄るのか?(1)

中村 孝也

2月23日、国際決済銀行(BIS)は、「Multiple CBDC Bridge」に中国人民銀行デジタル通貨研究所とアラブ首長国連邦中央銀行が参加したと発表した。このプロジェクトは、BISイノベーション・ハブ、香港金融管理局、タイ中央銀行のパートナーシップによる共創イニシアチブであり、分散型台帳技術を用いて、リアルタイムのクロスボーダー外国為替決済を容易にするための概念実証型プロトタイプの開発を目的としたものである。中国ではデジタル人民元の実証実験が繰り返されているが、今回の発表は、国際決済銀行がデジタル人民元の立ち上げに手を貸そうとする構図にも見える。

中央銀行デジタル通貨に対して、これまでBISは欧州や日本と近い距離感での取り組みを続けていた。2020年1月には、BISとカナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行は、それぞれの国・地域において中央銀行デジタル通貨の活用可能性の評価に関する知見を共有するためにグループを設立した。「主要中央銀行による中央銀行デジタル通貨の活用可能性を評価するためのグループ」は、参加機関の幹部で構成され、BISのイノベーション・ハブ局長、決済・市場インフラ委員長およびイングランド銀行副総裁が共同議長を務めている。2020年10月には「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」という報告書を公表した。その経緯を踏まえると、国際決済銀行による中国への肩入れにも見える今回の発表には違和感を覚える向きもあろう。

BISは、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織であり、ドイツの第1次大戦賠償支払に関する事務を取り扱っていたことが行名の由来である。BISには63ヵ国・地域の中央銀行が加盟しているが、過去の経緯から見ても、欧米色が強い組織と言える。理事会は、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国の中央銀行総裁で構成される6名の職権上の理事を含む最大18名のメンバーで構成されており、現在は、ドイツ連銀のワイトマン総裁が理事長を務めている。日常業務の運営は総支配人以下の職員が担う。

ミッション遂行のため、(1)各国の中央銀行相互の議論を促進し、協働関係を推進する、(2)金融システムの安定に責任を有する中央銀行以外の組織と中央銀行との対話を支援する、(3)中央銀行およびその他の金融監督当局が直面している政策的な課題について調査研究を進める、(4)中央銀行に代わって金融市場取引を行う、(5)国際的な金融オペレーションに際し代理者または受託者となる、(6)各国の中央銀行を株主とする銀行として組織されている。中央銀行などの代表が会合を開催する舞台となるほか、金融に関するさまざまな国際的な委員会に対し事務局機能を提供している。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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