戦略資産とは
戦略資産
創出された戦略を実行することで開発されるのが戦略資産です。戦略資産は、「国富」、それを国力に変 換する「プロセス」、結果として形成される「国力」の3つで構成されます。国益から案出される目標を 達成するための戦略形成に当たっては、当面する戦略資産を適切に評価する現状分析が必要不可欠です。 また、策定された戦略は、その実践によって戦略資産の充実を図ることになります。したがって、戦略資 産は戦略形成の前提でもあり、戦略を実践する対象でもあるということになります。国富を国力化するプ ロセスは、その適否によって国富の持つ潜在的な価値を何倍にもする可能性を持っていて、国家全体で管 理するべき戦略資産の中の重要な部分でもあります。
関係性に基づくパワー
「行動科学的なパワーの定義」では、相手の行動の変化によってパワーを測ろうとするため、パワーは 「望ましい結果を得るために他者に影響を与える能力」と定義されますが、他者への影響は直接行使され るものだけではありません。ソフト・パワーを提唱したナイは、他者との関係性に着目するとパワーには 3つの側面があるとしています。その概要は下表に示したとおりです。第2、第3の側面では間接的にパワ ーが行使され、その形態は「構造的パワー(structural power)」とも呼ばれます。
パワー行使の方法
パワーを行使する方法としての行動は様々ですが、ナイはパワーのハードとソフトの区分に着目して行動 の種類を位置づけています。また、それぞれの行動に関連性の高いパワーの源泉を考察し、ソフト・パワ ーの源泉として「文化」、「政治的な価値観」、「外交政策」の3つをあげています。その概要は、下図 に示したとおりです。しかし、ハード・パワーに関連性が高い源泉でも、ソフト・パワーの源泉にもなり 得ることが想定されるため、その後の論考では源泉とパワーの関連性は固定的ではないとされています。
戦略資産におけるプロセス
戦略資産における「国富」は「国力」の源泉となりますが、「国力」に変換するためのプロセスが必要で す。「プロセス」は、国家組織、NGO、多国籍企業、教育・研究機関、個人など様々な主体によって実行 されますが、それぞれの能力、戦略、関連する政策などによって「国富」を「国力」に変換する機能が左 右されます。プロセスでは、具体的に変換するための知的機動戦、パワー・マネジメントやそれを実行す るための組織・制度などが重要になります。これらを駆使することで、「国富」と「国力」との関連性は 固定的なものにとどまらず、様々な形態でパワー化されることになります。創出した「国力」は自国領域 を拡大するために行使され、充実した「国力」はその影響力の範囲拡大に反映されます。