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2020.05.29 外交・安全保障

「対外」政府債務と経済成長の関係

中村 孝也

コロナショックで増大する政府債務を前に、「政府債務と経済成長の関係」では、既存の研究における政府債務と経済成長の関係は必ずしも明確ではないことを論じた。それでは「対外」政府債務と経済成長の関係については何が言えるのであろうか。

「External Debt and Economic Growth: The Case of Emerging Economy」は「政府の対外借入は経済成長にプラスの影響だけでなく、マイナスの影響も与える可能性があること、そして多額の対外債務は新興国の経済成長に悪影響を及ぼしやすい」という既存研究の成果を紹介している。

Presbitero (2012)は、先進国は新興国よりも負債を生産的に利用することに長けていると主張した。先進国は多額の債務の副作用を管理することに長けている一方、新興国では対外債務の管理が不十分なために負の結果をもたらし、この負の結果は、生産的なプロジェクトに債務を活用することで得られる可能性のある利益を相殺してしまう可能性が高い。他の研究でも、新興国では対外債務と経済成長との間に負の影響を与えると指摘するものが多い。

「途上国の対外債務とGDPの関係に関する実証分析」は「債務と経済成長率は逆U字型の関係にある」という既存研究の成果を紹介している。途上国の対外債務と経済成長との関係をめぐる議論は、主にクラウディング・アウト(巨額の対外累積債務を抱えて財政収支が悪化していく状況では、国民の貯蓄資金は政府部門で利用される一方、民間の投資に向かう資金は抑制され、金融抑圧的な政策が実施されるケースが増える)とデット・オーバーハング論(累積した債務の返済が租税と同等の負担となり、内外の投資が縮小し、経済成長に悪影響を及ぼす)に基づく。

債務と経済成長の関係は「ラッファー曲線」に似た形状を描いており、債務と経済成長率との関係は逆U字型になる。外国資金の借入れによって自国の資源ギャップを補填し、補足的に必要な資本設備などを整備するのであれば、経済成長は高まりうる。しかし、債務規模が過大になればデット・オーバーハングが生じ、企業の投資インセンティブにも政府の開発政策への取り組みに対しても、マイナスに作用する。つまり、債務残高が低水準にとどまっている間は、債務累積が進んでいても経済成長は持続しうるが、債務累積規模が大きくなれば、債務の拡大は経済に負の影響を及ぼすようになってしまう。

Ali(2008)は、ラッファー曲線が上昇から下降局面へと転換する債務GDP比は35~40%の範囲とした。Cordella(2005)は、債務GDP比が15~30%を超えると経済に悪影響が生じ、70~80%を超えると債務高と成長とのリンクが切れてしまうと主張する。Cordella(2005)は被援助国の経済政策が不適切であったり、金融市場が未発達であるような場合、より早い段階でデット・オーバーハングに陥ると指摘した。

ただ、(1)債務高と経済成長の因果関係、(2)債務高の変化と経済成長とをリンクするチャネル(投資の規模か質か)、(3)債務高と経済成長の関係の非線形性、(4)債務高と経済成長の関係が非線形である場合に最適な債務高、および債務高の対GDP比が特定できるか否か、等には結論が見出されていないようだ。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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