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2021.03.05 外交・安全保障

覇権の変遷―各国比較―

中村 孝也

ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であり、著名投資家のレイ・ダリオ氏は出版予定の著書「The Changing World Order(変わりゆく世界秩序)」で、覇権国の変遷を分析している。「覇権国の推移」(※1)では、覇権が、教育、イノベーション・技術、競争力、軍事力、貿易、産出、金融センター、準備通貨という8つの要素から構成されるという見方を紹介した。今回は、オランダ、イギリス、アメリカ、中国の状況を見てみよう。

(1)オランダ
オランダのパワーは、1575年頃から上昇し、1600年代後半にピークを迎え、1780年頃から下降していった。ピークが先行したのはイノベーション・技術、競争力、軍事力で、遅行したのは教育、準備通貨である。1581年にスペインから独立したオランダは、貿易帝国を築き、世界貿易の3分の1以上を担うようになった。オランダ人は高学歴であったため、多くの分野で革命を起こし、17世紀初頭には世界の発明の約25%を生み出すようになった。その中でも特に重要なのは造船業であり、オランダの競争力と世界貿易におけるシェアを大きく向上させた。

(2)イギリス
イギリスの台頭は、1600年以前から始まっており、競争力の着実な強化、教育、イノベーション・技術などが先行した。一方で、遅行したのは準備通貨であった。1700年代後半には、イギリスの軍事力が優位になり、1800年代半ばにピークを迎えた。経済大国となったことで、非常に豊かにもなった。1900年頃、ポンドは世界の主要な基軸通貨となった。その後、アメリカやドイツのような強力なライバルが出現したことで、イギリスのほとんどすべての相対的なパワーは衰退に転じた。

(3)アメリカ
アメリカのパワーのピークは1950年代前半である。過去100年間で、教育、競争力、貿易、産出は相対的に大幅低下したが、イノベーション・技術、準備通貨、金融センター、軍事力は、依然としてトップかそれに近い位置に留まっている。後述の中国は、これらすべての分野で米国に追いつくと同時に、多くの点でアメリカに匹敵するようになり、アメリカを上回るスピードで進歩している。

(4)中国
先に示したオランダ、イギリス、アメリカのサイクルが、上昇から衰退へと進んでいるのとは異なり、中国のサイクルは、非常に低いところから上昇を続けている。順番は違うが、中国の衰退と台頭の背後には、他の帝国の衰退と台頭の背後と同じような傾向が見られた。8つの指標は、1940年から50年頃までは低水準であったが、1980年頃に中国の経済競争力と貿易が本格化するまでには、ほとんどの要素、特に競争力、教育、軍事力は向上していった。中国は現在、貿易、軍事、イノベーション・技術の分野で主導的な地位を占めており、これらの分野における相対的なパワーは急速に高まっている。先行指標の教育、イノベーション・技術は上昇継続だが、競争力にはややピーク感が見られる。遅行指標の準備通貨、金融センターでは依然として遅れをとっている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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