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2021.02.25 経済金融

日本のサービス収支(1)

中村 孝也

日本の2020年のサービス収支は3.5兆円の赤字となった。赤字項目として大きいのは、その他業務サービス(2.8兆円)、通信・コンピュータ・情報サービス(1.2兆円)などである。長期的に赤字基調であったサービス収支は、旅行収支の改善を背景として、2019年は初の黒字となっていたが、再び赤字に転落したことになる。2019年に比べると3.7兆円の収支悪化であるが、これは旅行収支の黒字幅が前年に比べて2.1兆円縮小したこと、知的財産権等使用料の黒字幅が6,421億円縮小したことなどが影響した。
サービス収支の黒字項目は、旅行収支、建設収支、金融サービス収支、知的財産権使用料収支、個人・文化・娯楽サービス収支、公的サービス収支である。旅行収支は、(コロナショック前は)訪日旅行者の増加により受取額が増加していたが、支払額は10年前と比べ半減し、日本人の海外旅行支出が減少している。建設収支の受取は主に日本の建設企業の海外事業による。支払は、外国の建設企業の日本事業は限定的で、日本の建設企業が海外事業を行う際に係る、現地での調達資材への支出、下請けに発注した際の工事代金、現地工事事務所等で支出する経常的経費等、海外事業の経費全般が支払項目の大半を占める。金融サービス収支は、金融仲介およびこれに付随するサービスを計上したもの。金融サービス収支は、長年赤字が続いたが、邦銀の海外事業拡大にともない2000年に初めて黒字化、近年は黒字額が拡大している。

知的財産権等使用料収支は、研究開発やマーケティングによって生じた財産権の使用料のほか、著作物の複製・頒布権料等を計上する。産業財産権等使用料は産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)使用料、ノウハウ(技術情報)使用料、技術・経営指導料等を計上、著作権等使用料は、ソフトウェア、音楽、映像を複製・頒布するための使用権料、著作物(音楽、映像、キャラクター)使用料、上映・放映・配給権料、映画のビデオ化に関する代金等を計上する。知的財産権等使用料については、産業財産権等使用料は黒字基調にある一方、著作権等使用料は、ソフトウェア使用権料の支払により赤字基調にある。産業財産権等使用料の受取は、大半が日本の現地法人からの受取という見方が多い。

個人・文化・娯楽サービス収支は、個人向けサービスや文化・娯楽関連サービスである。内訳の音響映像・関連サービス収支は、映画やテレビ番組制作に係るサービス、劇場・音楽公演、スポーツイベント、サーカス等の興行に係る取引(会場・広告宣伝費、出演者、プロデューサーの報酬等)である。その他個人・文化・娯楽サービス収支は、教育や文化活動に関連したサービス取引、プロスポーツ大会に係る費用(選手の賞金、参加料)である。公的サービス等収支は、在外公館や駐留軍隊の経費を計上しており、自衛隊の海外での様々な支援活動に係る費用が含まれる。

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。