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2021.02.15 安全保障

ソフト・パワーとしてのアート(2)

中村 孝也

アート東京・芸術と創造による「日本のアート産業に関する市場調査2019」は、芸術と様々な事柄との関係性に係る価値観を調査している。「芸術は、人々が豊かに生きるために必要である」、「芸術は国際的な相互交流において重要である」については半数以上が「そう思う」と回答した。また、「芸術的視点は、地域の魅力の向上において重要である」、「芸術は国家ブランドの向上において重要である」についても、「そう思わない」の割合を「そう思う」の割合が上回った。相対的多数が、アートにソフト・パワー的な価値を見出しているということだろう。

1990年に6,000億円規模まで膨らんだ日本の美術品輸入は、1993年以降は500億円未満で推移してきたが、2011年以降は再び拡大に転じ、2018年には558億円となった。輸出は近年拡大傾向にあり、2018年は430億円と過去最高を記録した。美術品の貿易収支を見ると、小幅ではあるが、赤字基調で推移しており、単体では「稼ぎ役」とはなっていない。ただ、美術館の来館者数を見ると、日本からは国立新美術館、東京国立博物館、国立西洋博物館が上位100にランクインしている。

7ヵ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、韓国、日本)の2016年度の文化予算額と、国家予算に占める文化予算額の割合を見ると、日本の文化予算額は7ヵ国中最も少なく、文化予算が国家予算に占める割合は下から2番目に位置している。近年、韓国や中国は文化予算額を大きく引き上げてきているのに対して、日本の文化予算額はほぼ横ばいにとどまる。前述の来館者数ランキングでも、アジアでもっともランクが高いのは、台湾の国立故宮博物院である。韓国からも3つがランクインしているが、日本より順位が高い。

日本の競争力、自然科学系論文と特許出願」では、日本の自然科学系論文数(2016~18年の平均)が10年前と比較して微減であり、他国・地域の論文数の増加により相対的に順位を下げていることを紹介した。その背景として、科学技術予算の少なさが指摘されることが多いが、文化予算についても同じことが言えそうだ。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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