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2021.02.09 安全保障

ワクチン普及と経済見通し

中村 孝也

更なる成長鈍化を警戒する世界銀行」では「2021年に世界のGDPは4%拡大する」という世界銀行の経済見通しを紹介したが、これはパンデミックの適切な管理と効果的なワクチン接種を前提とした「ベースライン・シナリオ」に基づくものである。今回の世界銀行の経済見通しは、ワクチンの普及進展と経済見通しを直接結びつけている点が特徴的であり、「ダウンサイド・シナリオ」、「シビアダウンサイド・シナリオ」、「アップサイド・シナリオ」に基づく経済見通しが示されている。

ベースライン・シナリオでは、世界経済は2020年のマイナス4.3%成長の後、2021年には4.0%、2022年には3.8%の成長を見込んでいる。新興国は、2020年のマイナス2.6%成長から、2021年には5.0%、2022年には4.2%成長を遂げる予想である。
多くの経済圏で、2021年前半に1日当たり感染数が減少する。先進国および主要新興国(中国、インド、ロシアを含む)では、2021年の第1四半期にワクチンの接種が開始され、2021年後半には普及する。一方、物流上の障害のため、その他新興国では2四半期、低所得国では4四半期遅れる。

ダウンサイド・シナリオでは、先進国経済の回復は鈍化し、2021~22年の平均成長率は2%未満と見込む。2021~22年の新興国の平均成長率は、ベースライン・シナリオの平均5%近くから約3.3%へと大幅に低下する。2022年の世界成長率は3.5%、新興国の成長率は2.5%を見込んでいる。
2021年には多くの国で新規感染者数が増加し、より長期的かつ厳格なパンデミック対策が必要となる。供給のボトルネックと、予防接種を受けることに消極的な人々が多いことから、先進国および主要新興国におけるワクチンの普及は限られる。その他新興国および低所得国では、物流上の問題から、先進国や主要新興国での展開から最大4四半期遅れる。

シビアダウンサイド・シナリオでは、広範な金融危機が2021年に世界経済を2年目の景気後退に陥れた後、2022年には成長率が2%近くで低迷する。
ワクチンの普及はダウンサイド・シナリオと同程度を見込むが、当局が広範な金融危機を食い止めることができないという点が、ダウンサイド・シナリオの想定とは異なる。

アップサイド・シナリオでは、2021年の世界経済成長率は5%近くまで加速することを見込む。先進国は4.1%、新興国は5.8%の成長を遂げる。
ワクチンの普及は、先進国と主要新興国では2021年半ばまでに、その他の新興国と低所得国では最大で4四半期後までに達成するとの前提である。パンデミック対策の遵守率も高い。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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