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2021.01.27 安全保障

“アフターコロナ”に向けた地産地消型の生産ネットワーク

中村 孝也

海外事業は急減速、有望国ランキングでは中国がインドを抜き再び首位に」では、国際協力銀行が発表した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2020年度海外直接投資アンケート調査結果-(第32回)」を引用して、日本企業が海外事業展開において有望と考える事業展開先国を紹介した。本稿では、同調査結果で示されている新型コロナによるサプライチェーンへの影響、アフターコロナにおける対応を紹介しよう。

新型コロナによるサプライチェーンへの影響については、4~5月頃が最も大きく、既に解消に向かっているという。日本や米国よりも中国やASEANの方が大きな影響を受けたことから、中国、ASEANの生産ネットワークの重要性が改めて示唆される結果となった。「新型コロナを受けて海外投資計画の見直しを行うか」という質問に対しては、約6割が「変更はない」と回答した。見直しを行うと答えた企業の割合はSARS当時よりも大きいものの、「国内投資に切り替える」と回答した企業は488社のうち11社にとどまり、海外投資計画の再検討を行う段階までには至っていない。サプライチェーンに関する対応においては、国内生産拠点への回帰の動きは限定的であり、あくまで海外事業を維持しながらの対応になる見込みである。

昨今の米中摩擦や新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、米国と中国のサプライチェーンを切り離したり、あるいはその意向をもつ企業が一定数確認されている。従来、中国での労働コスト上昇への対応として、東南アジアやメキシコなど労働賃金の低い地域への移転や調達先変更の動きがあり、それが米中摩擦で加速したとの指摘があった。新型コロナをきっかけにサプライチェーンの強靭化を検討する中で、上昇する物流・通関コストへの対応や政治リスク回避の観点から、「中国向けは中国で、米国向けは米国やメキシコで生産する、もしくは既にそうしている」という意見が複数聞かれた。いわゆる“アフターコロナ(あるいはアフタートランプ)”の世界において、最終消費地を軸とした地産地消型の生産ネットワークへの再編成が一つの解として認識されつつあることが示唆されている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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