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2020.12.23 安全保障

企業の資金不足懸念は根強い

中村 孝也

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、世界的に企業の売上は大幅に減少している。10月に公表された「金融システムレポート」では、国内企業の売上・利益の大幅な落ち込みと借入の増加が続いていることの分析に重きが置かれたが、11月30日に発表された日銀レビュー「新型コロナウイルス感染症拡大のグローバルな企業債務への影響」では、海外企業を対象とした分析が行われた。北米を中心に、対面型のサービス業などで、少なからぬ企業の有利子負債比率が高まるリスクがあると結論づけている。

企業の資金繰りについてはネット流動性資産ポジションが、企業のソルベンシーについては有利子負債比率(有利子負債総額÷総資産)が、考察の対象とされている。ネット流動性資産ポジションとは、現金化が極めて容易と考えられる「現金同等物等」と期限内に必ず支払う必要のある「1年以内に返済義務のある債務の元利払い費用」の差で定義される。さらに、IMF(国際通貨基金)による警戒水準を参考に、30%以上の有利子負債比率を「中程度」の警戒度、60%超を「高い」警戒度として捉えている。

感染症拡大前の資金繰り指標は、中央値でみればどの地域でも安定していた。一方、企業のソルベンシーは、「北米」や「その他新興国」においてIMF の警戒水準「中程度」に至らないものの、相応の水準まで高まっていたことが指摘されている。

シミュレーション結果について、2020年末に資金不足に陥る企業の割合は、北米で40%近くとなるほか、新興国でも20%程度となり、追加的な資金調達が必要となる企業が増加する可能性が示唆されている。資金不足に陥った企業が、銀行借入・社債発行等の負債で資金を調達する場合、2020年末で資金不足となる企業に限定すると、北米企業の有利子負債比率の中央値は、2019年末時点の30%弱から80%程度まで急上昇し、IMFの警戒水準で「高い」とされる閾値を上回る。また、中央値でみれば「高い」警戒水準には至らないものの、分布をみると、欧州やアジア大洋州の新興国、その他新興国でも、「高い」警戒水準を超える有利子負債比率となる企業が相応に存在するとのことである。

今回の感染症拡大の経済への影響は、いわゆる対面型サービスの分野に強く表れている。これは、公衆衛生上の措置によって物理的に対面での商業活動に制限が課されたことや、感染症の拡大により家計マインドが慎重化し、個人消費にも影響を及ぼしたためであり、一部の業種で企業の資金繰りやソルベンシーについて一定の注視が必要であるとしている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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