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2020.09.29 安全保障

中国の外貨準備が増えないワケ

中村 孝也

8月の中国経済統計は、全般的に期待を上回る結果であったと見られる。小売売上も前年比でプラス転換を果たした。同月の金融統計でも、社会信用総量は前年比13.4%増と、7月の同13.0%増から伸び率が加速した。新規貸出も事前予想を上回り、一時の金融引き締め観測が後退した。

8月末の外貨準備も増加しており、前月を上回るのは5カ月連続である。一方で、「中国の外貨準備高が増えていない」ことに関心が寄せられている。第2四半期の金融勘定の赤字は、これまでに報告された経常収支、直接投資、外貨準備などの主要な要素では説明できないと指摘されている。

外貨準備高の増加が限られる要因として、(1)中国企業が対外債務を返済したり、ドルをため込んだりしている、(2)国営銀行が外貨資産を積み上げている、(3)中国の外資系企業が人民元資産を減らしたり、中国から資金を持ち出している、(4)資本逃避、などの可能性が考えられる。しかし、ドル安人民元高傾向でもあり、最近は海外から資金は流入傾向にあるのであれば、3~4はその点と矛盾する。また、「中国のデータでは銀行システムの純対外資産が増加している」ことから、中国人民銀行が外貨準備の一部をバランスシート外に保有し、実質的に国有銀行に貸し出しているという指摘もなされているようだ。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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