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2020.09.14 外交・安全保障

日本が歩むグローバル金融センターへの道(2)域外利益を捨てた香港

中村 孝也

この原稿は「日本が歩むグローバル金融センターへの道(1)香港の導管性」に続くものである。

金融センターである香港もタックスヘイブンと見做されている。タックスヘイブンの課税の面では、香港は「低税率国」と「国外源泉所得非課税国」に当てはまる。法人税が16.5%(英領ヴァージン諸島やケイマン諸島はゼロ%)と低い点も重要であるが、資本の流出入や海外収益に課税されないという点は「金融センター」にとって最も大事であろう。香港を経由した他国から投資を回収したり利益を戻しても、それらの取引には一切課税されない。香港自体が「導管性」を備えていると言え、「アジアのクロスボーダー取引のハブ」として使い勝手が良いということだ。

このため、多くのアジアの富裕層やグローバルカンパニーが資産管理会社や持株会社を香港に設置している。香港は、香港域外の利益には関心がなく(あるいはその部分を捨てることによって)、資金プラットフォームに集まる大量の資金が域内経済を刺激することを目指している。

香港の金融・保険業のGDP構成比は19.6%と高水準である(2019年、ちなみに日本は2018年で5.1%にとどまる)。香港からの資本流出入の総額(直接投資と証券投資の合算値、フロー)は2,874億ドル(2018年)であり、世界で第6位という規模感である(日本は第4位)。そのうち中国との資本流出入が全体の3分の1程度を占めると見られることから、中国以外の国との資本流出入は2,000億ドルほどに上ると考えられる。2,000億ドルというのは世界8位ぐらいの規模感であり、導管として大いに機能していることが見てとれよう。

では、日本はどうだろうか。日本には「東京オフショア市場」が存在する。これは1986年12月に円の国際化を目指して開設された市場であり、2020年4月時点でのオフショア市場資産残高は91兆円(0.8兆ドル)に上る。東京オフショア市場は、特別国際金融取引勘定(オフショア勘定)を保有する国内金融機関が、非居住者を取引の相手方として国外から調達した資金を国外で運用する「外―外取引」を原則とした市場であり、通常の国内資金取引とは会計が分けられており、税制、金融面で一定の優遇措置が取られている。ただ、あくまでも「外―外取引」を原則とした市場である。若干の経済貢献はあるだろうが、「資本を日本に吸収する」という目的では、日本のオフショア市場はまったく機能していない。

日本は輸出産業が大きく、「クロスボーダー取引のハブ」のために全体の制度を変える事は容易ではない。例としては、タックスヘイブン対策税制が挙げられる。これは、タックスヘイブンに設立された子会社の所得を親会社の所得として合算して課税する制度であり、タックスヘイブンを利用した課税逃れを防ぐという意味においては非常に機能している。しかし、当然ながら海外の富裕層や企業の資本を集積させるということは考えられていない。また、歴史的にも文化的にも、これらの「金持ち優遇」と言われる税制を導入することには世論の抵抗感が強いため、現状で「クロスボーダー取引のハブ」という金融立国への道は遠いと言わざるを得ない。

本当に「クロスボーダー取引のハブ」を目指すのであれば、税率の問題は避けて通れないだろう。日本経済新聞によると、日本のヘッジファンドの運用残高と社数は、香港、シンガポール、オーストラリアに次いでアジア太平洋で4番目とされる。彼らが所在地を選定する理由として、法人税、所得税などの税制面が指摘されることが多い点を念頭に置くと、導管性に加えて、法人税率や所得税率の水準も金融センターの要件の一つであろう。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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