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2020.08.12 外交・安全保障

ヘリコプターマネー政策に踏み出したインドネシア

中村 孝也

7月6日、インドネシアの財務相と中銀総裁は、新型コロナウイルスの対策として拡大する財政赤字の負担を中銀と政府で分担することで合意した。3月末にジョコ大統領は政令で時限的にインドネシアの財政赤字上限を超える財政拡大の容認や、中銀の国債直接引受を認め、インドネシア中銀は4月から国債引受を開始した。インドネシア中銀が保有する国債(200兆ルピア)のうち、直接引受は30兆ルピア、流通市場からの購入が170兆ルピアであるが、新型コロナウイルス対策として政府が約900兆ルピア(GDP比6%)を調達するうち、インドネシア中銀が約400兆ルピアを直接引き受けることが決まった。

何をもってヘリコプターマネー政策の実施と見做すかは難しい問題であるが、一つの有力な見方は「中央銀行による国債の直接引受」である。ヘリコプターマネー政策に踏み出したにもかかわらず、これまでのところ金融市場の反応は冷静である。ルピアの下落も限られているし、ルピア金利もさほど上昇していない。今回の措置が「時限的」であることが、金融市場の反応を限られたものにしている可能性が指摘できるだろう。

もっとも、現地通貨建てインドネシア国債のうち海外投資家保有比率は33%に達している。「政府債務が膨張しても金利が上昇しないのは何故か?」でも取り上げた通り、海外投資家による政府債務の保有比率が20%を上回ると、国内金利が非線形的に上昇しやすくなるという指摘もあるため、金融市場の先行きは慎重視した方がよいのかもしれない。もし仮に、当面、金融市場の安定が保たれるのであれば、政府債務の増加が不可避な環境下、ヘリコプターマネー政策の誘惑に屈しきれなくなる国が続出する可能性も考えられよう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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