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2020.07.15 外交・安全保障

外為取引高で日本がシンガポール、香港に劣後する背景を分析した日銀

中村 孝也

2020年3月に公表されたZ/Yenによるグローバル金融センターランキングでは、東京はアジア太平洋地域で首位の座を獲得した。一方、7月2日、日本銀行が公表した日銀レビュー「アジアにおける外為市場の近年の特徴点について—日本・シンガポール・香港の比較—」では、近年、シンガポールおよび香港の外為取引高は日本を上回っており、2019 年には日本との差が拡大しているとの問題意識が示されている。

国際決済銀行(BIS)が実施した取引高調査によると、日本はシンガポールや香港に比べ、事業法人を中心とした非金融機関向けの取引高では僅かに上回っているものの、金融機関・その他金融機関(機関投資家、ヘッジファンド等が含まれる)との取引高では大きな差をつけられている。通貨別に外為取引高をみると、シンガポールおよび香港とも、日本に比べ、アジア通貨と自国以外の先進国通貨(G10 通貨)の取引高シェアがともに高く、双方が全体の増加に寄与している。

アジア各国の財サービス貿易等の取引は、日本と比べても近年急速に拡大しており、これに伴って為替の経常取引も急増しており、単に代金決済に伴う為替取引だけでなく、リスクヘッジ目的での為替取引も発生させる。アジア通貨は、スポット取引のみならず、特に為替スワップおよびフォワードのうち NDF(Non-Deliverable Forward:予め約定したフォワード・レートと満期時のレートとの差金のみを指定した通貨(通常米ドル)で決済する取引)が全体の取引高を牽引している。シンガポールや香港では、こうした取引にも高速・高頻度で取引を行う電子取引を提供する動きが広がってきている。電子取引の普及および高度化によって取引コストの低下や流動性の向上に繋がり、取引高をさらに増加にさせていると考えられる。

また、好循環を生むために、(1)シンガポールでは、税率の低さや IT 人材の優位性を呼び水としつつ、政府が電子取引の拡大に向けて様々な施策を導入しており、主要な金融機関の電子取引プラットフォームのサーバー誘致等に注力していること、(2)シンガポールや香港では、ヘッジファンドや PTF(proprietary trading firms)等、顧客層に厚みがあり、そうした顧客ニーズに応える過程で、銀行が電子取引を高度化させてきたこと、(3)資本取引についても、シンガポールや香港では、富裕層向け資産運用ビジネスが発達しており、こうした資産運用に関連した為替取引は、先進国通貨を中心に最良執行の観点から透明性が高い電子取引に移行しており、取引高の増加に繋がっていること、が指摘されている。

中長期的には、グローバル化の進展や地域経済の発展等によって資本取引は増加し、将来的に資本規制の段階的な緩和が進めば、為替取引も拡大する可能性がある。こうした資本フローの受け皿となることは日本にとって重要であり、為替取引の活発化、さらには資本市場を含む金融市場全体の発展にも資すると結論づけている。今回のペーパーは、香港がグローバル金融センターから凋落する可能性が意識される環境下、日本が事業機会の一部を獲得するためには、上記への対応が必要という日銀の提言とも理解できよう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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