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2024.09.17 経済金融

常態化する「内憂外患」、中国はどう臨むか――2つの重要会議から読み解く

三浦 祐介

 中国経済の先行き不透明感がなかなか晴れない。背景にあるのは、長期化する不動産不況という「内憂」と、再び激しくなりつつある貿易摩擦という「外患」だ。不動産の販売床面積は、2022年から2023年にかけて2年連続で前年割れとなり、2024年も前年割れとなる見込みだ。これは過去約30年間の中国不動産市場の歴史において初めての出来事だ。貿易摩擦に関して言えば、2024年に入り、米国や欧州を中心に、中国の過剰生産能力がもたらす輸出攻勢に対する批判が強まり、中国製のEV(電気自動車)などに対して追加関税を課す動きがじわじわと広まっている。

常態化する中国経済の「内憂外患」

 もっとも、こうした「内憂外患」は今に始まったことではない。過去をさかのぼれば、習近平政権発足後の2016年ごろから始まり、現在に至るまで続く、いわば常態化した問題となっている。

 「内憂」は、過剰債務の削減に伴う内需への下押し圧力だ。製造業、不動産業、地方政府という3つのセクターで、過去の経済対策の副作用によってバランスシートが膨らんだため、2015年末から政策的にデレバレッジ(債務削減)が進められてきた。製造業を皮切りに、鉄鋼や石炭を中心とする過剰生産能力の淘汰と表裏一体で進んだ。その後、紆余曲折を経て、2020年以降は不動産セクターのデレバレッジが本格化。2023年からは地方政府の隠れ債務(政府傘下の融資平台の債務)への対応にも本腰を入れ始めた。そのことが、設備投資の下押しや現在の不動産不況という形で、経済の重しとなってきた。

 一方の「外患」は、中国の大国化に伴う米国などの対中警戒姿勢の強まりと、それに伴う外需やイノベーションへの悪影響だ。この姿勢は、米バラク・オバマ政権後期に鮮明になり始めたが、2017年にドナルド・トランプ政権が発足したことで先鋭化。関税合戦がエスカレートした。バイデン政権移行後、激しい関税合戦は止んだものの、対中輸出・投資規制などは引き続き強化されてきた。また、中国への警戒は西側諸国全体へと広がりを見せ、デリスキングの動きが進みつつある。

 このように、中国の「内憂外患」は、デレバレッジという中国の経済構造改革と、デリスキングという中国の発展に伴う他国の対中政策の変化に起因する。これらの動きは、そう簡単に解消されるものではない。これまでのところ、中国は経済の下支えをしながら景気の腰折れをなんとか回避してきた。ただし、上述の通りデレバレッジは依然道半ばにあるほか、米国でトランプ前大統領が再選した場合、対中輸入全額に対して追加関税を課すと宣言している。

 今後も続くであろう苦境に対して、中国はどのように臨もうとしているのだろうか。それを展望する手がかりとなるのは、2024年7月に開催された中国共産党の2つの重要会議だ。

中長期的には引き締め姿勢

 1つ目の重要会議は、中長期的な施政方針が議論された三中全会だ。

 三中全会は、1期5年の政権期間中に一度開催され、これまでも経済を中心に重要な改革の方針が議論、決定されることが長らく習わしとなってきた。今回の三中全会では、国内外の厳しい情勢に対して、引き締め姿勢で臨む考えであることが示唆された。

 例えば、市場化改革に関して、習政権発足後の2013年に開催された三中全会では、資源配分における市場の役割を「基礎的な役割」から「決定的な役割」へと引き上げており、ポジティブな側面に対する期待が表れていた。これに対し、今回の三中全会では、「決定的な役割」との位置づけに変わりはなかったものの、「『緩和の柔軟性』を保ちながら『管理の徹底』をはかり、しっかりと市場の秩序を維持して市場の失敗を補完する」ことが強調され、市場に対して懐疑的な姿勢が浮かび上がった。

 中国が言う「決定的な」役割とは、もとより「全ての」役割ではなく、党・政府の介入を否定するものではないため、市場に期待する役割が本質的に変わったわけではない。ただ今回、「徹底した管理」や「市場の失敗」を強調したところに、市場の役割に対する認識の微妙な変化を読み取ることができる。また、デレバレッジやそれに伴う銀行の不良債権処理といった金融リスク対策について、党・政府による管理の下で進める必要があるとの思惑もあるのだろう。市場任せで進めることで、予期せぬ混乱が発生することを危惧しているものと思われる。

 また、対外開放に関して、中国は、これまで積極的に先進国企業を誘致し、そのイノベーション力を吸収して自国の発展に結びつけてきた。今回の三中全会でも対外開放堅持の姿勢に変化はない。ただ、実情としては、西側諸国からの制裁に対して反撃の仕組みを構築して守りを固め、外国への情報漏えいや外国からの干渉に対する警戒も強めており、対外開放一辺倒の姿勢ではなくなっている。

 このためか、今回の三中全会では、西側諸国からのデリスキングにかかわる方策が目立つ。例えば、「産業チェーン・サプライチェーンの強靭性・安全性向上の制度」や「(イノベーションの)新型挙国体制」、「『一帯一路』の質の高い共同建設を推進する仕組み」の整備だ。これらの方針からは、自国の産業競争力強化や新興国との対外連携強化を志向する姿勢が垣間見える。

 もっとも、引き締めるだけで党に対する求心力を強めることには限界がある。

 これまでは高度経済成長による経済的利益の拡大が中国共産党の支配の正統性の源泉となってきた。現状は成長率が低下し、「質」重視の発展へとシフトする中で、党への求心力維持のためには、福祉や分配政策によって、これまで容認されてきた格差への対応が重要となっている。この基調は習政権発足時から変わらず、今回の三中全会でも、「所得分配制度の改善」、「社会保障体系の整備」、「都市と農村の格差縮小」といった従来からの政策を継続、強化する考えが示されている。

短期的には消費振興を軸に内需拡大

 2つ目の重要会議は、当面の経済運営について議論された中央政治局会議だ

 同会議では、現在の情勢認識として指摘した課題の筆頭に「外部環境の変化による不利な影響の増加」を挙げ、貿易摩擦の影響について中国指導部が懸念を強めたことが示唆された。外部環境が最重視されたのは、米中摩擦が激しくなり始めた2018年7月の同会議開催以来、6年ぶりのことだ。

 それでも、「+5%前後」の経済成長率の実現を目指し、「マクロ政策に持続的に力を入れ、より力のあるもの」とする考えが強調された。その上で、今後の財政・金融政策については、「追加的な政策措置をできるだけ早く準備し、速やかに発表する」とし、対策強化の可能性について言及している。今後の情勢次第では、2023年と同様に期中に国債の増発をしたり、7月に続く追加利下げなどが実施されたりする可能性がある。

 また、「消費の振興を重点として国内需要を拡大し、経済政策の重点を民生や消費促進へとより移していく」との方針も示された。現在の経済対策の重点は、産業高度化や設備更新の支援など、どちらかというと製造業に偏ってきた。しかし、供給サイドだけを支援しても、最終需要が弱いままでは需給のつり合いがとれないため、家計の消費支援の必要性は内外の識者からもかねがね指摘されてきた。

 そのため、今回の政策スタンスの変化は前向きに評価ができるが、現在、発表されている具体策は、既存の耐久財買い替え支援策の財源拡大程度である。家計のマインドが冷え込む中、それだけで消費が改善するかは未知数であり、仮に効果が表れても需要の先食いとなる可能性が高い。結局のところ、雇用環境の改善や社会保障制度改革など、より根本的な課題への対策が進まない限り、消費の底上げは限定的なものにとどまるとみられる。

 リスク要因である不動産市場と貿易摩擦に関する対応については、これまでの方針から目立った変化は見られなかった。不動産不況に関しては、2024年5月に発表された在庫住宅の買い取りおよび保障性住宅(低所得者向け住宅)への転用と、2022年から実施されている未完成住宅の竣工および引き渡しの支援(「保交房」)の2つが挙げられたのみで、新たな政策は発表されなかった。

 また、貿易摩擦に関しても、例えば産業補助金の見直しなど摩擦の緩和材料になりそうな措置について言及はなかった。中国としては、西側諸国から非難されている事柄に折り合いをつけるというよりも、内需振興や三中全会で重点とされた自国の競争力強化などを進める腹積もりとみられる。そうすることで、外部環境悪化のリスクを乗り越えようとしているのだろう。

もはや先送りにできない構造改革

 これまで見たように、長期化する「内憂外患」に対して、習政権は国内の管理、統制を強め、当面の経済運営では内需拡大を図ることで、その難局を乗り越えようとしている。今日、世界全体として保護主義的な傾向が強まりつつある中、中国が内向き志向を強めることは、それ自体特殊なことではないだろう。もっとも、姿勢のいかんにかかわらず、中国が抱える課題に変化はない。

 代表的なものとしては、以下2点が挙げられよう。

 1点目は、デレバレッジの完遂だ。冒頭でも述べたようにデレバレッジは「内憂」の元凶そのものだ。これについては、不動産セクターのほか、地方政府融資平台の債務の処理が今後の課題である。当面は、中央政府や人民銀行、国有商業銀行が関与することで、景気の下振れや金融リスクへの発展は回避できる見込みだ。

 ただ、最終的には、経営が実質的に破綻し、「ゾンビ企業」と化した融資平台の再編や、それに伴う不良債権処理までをやり遂げる必要がある。これは決して容易ではないが、非効率なセクターから新しい成長セクターに資金を振り向け、中国経済が次のステップに進む上では避けて通れない道である。

 2点目は、投資中心から消費中心の経済への移行だ。中国のGDPに占める個人消費の割合は、2023年時点で39%と、他国に比べて低い。だが、これまでの過度な投資により資本の生産性は低下しつつあり、投資依存の成長からの脱却が求められている。中国における経済政策では、最近の設備更新支援策のように企業部門が重視されがちだが、それが過剰投資や過剰生産の問題を招いてきた。また、現在そうであるように、対外的な摩擦も引き起こしてきた。

 今後は、社会保障制度の拡充や格差の縮小など家計の生活に関わる政策に重点を置き、消費の拡大を図ることが望ましい。中央政治局会議で示された「消費の振興」重視の姿勢の本気度が、今後試されることになるだろう。

 これら課題への対応は、習政権発足後に着実に進展してきたと評価できるが、景気の安定への配慮や利害調整の難しさから、先送りにされることも少なくなかった。しかし、これ以上の先送りは難しくなりつつある。

 例えば、景気の安定や金融リスク防止に必要な財政余力や銀行の体力は、人口の減少、経済の減速、デレバレッジなどさまざまな要因により徐々に低下している。今後もその傾向が改善することはないだろう。特に人口減少の影響は、すでに経済をじわじわと下押ししているが、2030年代前半に一段と強まる見込みだ。安定成長を維持できるうちに経済の構造を改善しなければ、経済が長期停滞に陥る可能性がある。

 三中全会では、掲げた改革の期限を2029年と定めており、改革の完遂に向けた意気込みが示された。もっとも、達成度を測る明確な基準が設けられているわけではないため、政治的な意味合いを踏まえれば、改革の目標達成は既定路線であろう。従って、今後の中国経済が停滞を回避できるかを展望する上で、必要とされている改革が具体的にどのように進捗し、成果として表れていくか――。その変化を丁寧に検証していく必要がある。

写真:新華社/アフロ

地経学の視点

 中国経済の先行きについては世界が関心を寄せるところだが、回復の兆しは未だに見えてこない。高い成長率を武器に経済を拡大させてきた中国にとっては試練の時代と言える。さらに、国内需要が十分に喚起されず、EVの過剰生産によるデフレ輸出は海外に影響を与えており、一国の問題として割り切れないところが頭痛の種だ。

 諸外国は追加関税を課すなどし、こうした中国のデフレ輸出の動きに対抗している。ただ、筆者が指摘するように、こうした対抗措置が中国をより内向きにしている感は否めない。過去を見ると、内向きになるが故に、諸外国、特に日本に対して強硬になるケースもあった。わが国にとって経済的結びつきが強い中国との付き合い方はセンシティブなものではあるが、向き合わざる得ない現実が常に付きまとう。

 中国経済がどのような局面にあるのか――。ベールに包まれた中国政府の内情をにわかに知ることはできないものの、本文で注目したような会議の結果を解きほぐすことで見えてくることがある。一筋縄にはいかない隣人ではあるが、丁寧に追っていくことで理解を深める必要があるのかもしれない。(編集部)

三浦 祐介

株式会社ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
2006年早稲田大学卒業、同年みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。アジア調査部中国室、みずほ銀行(中国)有限公司出向、人事部を経て、2023年より現職。専門分野は中国マクロ経済・政策。