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2022.03.18 外交・安全保障

BTGを約19%も喪失していた!戦力を失いつつあるロシアが「思うように攻撃できない」驚きのワケ

米内 修

「圧倒的な戦力」を保有していたロシアだが…

ロシアのウクライナ侵攻から3週間以上が経過した。ベラルーシとの国境からウクライナの首都キエフまでは約100㎞の近さにあり、侵攻当初は早期に陥落する危険性が多く指摘された。しかし、現時点でもロシア軍の包囲は完全ではなく、ゼレンスキー大統領も大統領府から国民に対して徹底抗戦を呼びかけている。

ロシア軍の補給体制や士気の低下などに問題があることは事実だと考えられるが、それ以上にウクライナ軍の強力な抵抗が侵攻を遅らせていると判断される。

2022年版のGlobal Firepowerの戦闘力指数では、ロシア軍がウクライナ軍の6倍以上のポイントを有し、評価された全142か国中の順位でも2位と22位と大きな差があることが明白である。

同じGlobal Firepowerのデータに基づけば、ロシアはウクライナに対して人口で約3.3倍、軍務適齢人口で約3.0倍、常備兵力で約4.3倍、国防予算で約13.0倍、戦闘機数で約11.2倍、戦車数で約4.8倍、自走砲数で約6.2倍、水上戦闘艦船と潜水艦を総合した艦隊戦闘力指数で約15.9倍と、圧倒的な戦力を保有している。しかし、3月18日の時点でキエフはいまだ陥落せず、ロシア軍の進軍も滞っているようだ。

 

大隊戦闘群(BTG)に火力増強したものの

米陸軍の海外軍事研究室が2016年に発表した、「ロシアの戦法」によれば、ロシア陸軍の攻撃は、装甲化あるいは自動車化狙撃部隊が、統合した火力を集中的に発揮しながら急速に停止することなく敵に接近する要領で行われる。このため、各軍管区に配置されている諸兵科連合軍や戦車軍の中には、作戦の基本となり独立して戦闘を遂行できる自動車化狙撃旅団や戦車師団/旅団が複数編成されている。

師団や旅団の中では、戦術的な運用単位である自動車化狙撃大隊や戦車大隊を中心として、自走砲とロケット砲の部隊によって火力を増強された大隊戦闘群(battalion tactical group: BTG)が編成され、運用されている。

攻撃では、火力の優越と迅速な機動が最も重視されるため、諸兵科連合軍などには師団や旅団に増強するための火力戦闘部隊が編成されている。さらに、自動車化狙撃旅団の中には、自動車化狙撃大隊や戦車大隊と同数以上の火力戦闘の大隊が編成され、BTGに強大な火力を提供する体制を整えている。

また、ランド研究所が2017年に発表した、「ロシアの軍事行動の要領」によれば、ロシアの戦術では依然として、1)火力優越の獲得と維持、2)情報・監視・偵察能力と広範囲を火制する火力プラットフォームの改善、3)機動部隊における諸兵科装備の統合、が重視されている。

その典型的な例として、多層化された統合防空システム(IADS :integrated air defense system)と多様な地上発射型間接照準火器システムの連接があげられている。この中では、様々な射程を持った地上発射型の間接照準火器が編成され、機動部隊の行動に連携した火力支援が提供されるようになっている。さらに、これらの機動部隊や火器に対して、防空範囲が異なる様々な対空火器を層状に組み合わせ、敵の経空火器からの防護体制を構築している。

こうした統合システムにより、戦術レベルの戦闘において大量の火力を集中運用するのがロシア陸軍の特徴の1つである。この際、火力戦闘の中心となるのが、自走砲とロケット砲である。

 

戦場で「負の連鎖」が起こっている?

旧ソ連時代に軍を共有していたロシアとウクライナは、編成や装備で類似している部分もあるが、量的にはロシア軍が優勢であるにもかかわらず、実際には思うように攻撃できていないロシア軍の姿が報道されている。

その理由の1つとして、ロシア軍が通常行う攻撃ができていないことが考えられる。機動と火力の融合によって攻撃するロシア軍は、移動状態からの攻撃を基本としている。このため、梯隊区分を行って前進するとともに、目標線ごとに横方向に展開しながら比較的広正面を同時に攻撃する。今回のウクライナ侵攻では、道路以外の機動に制約があるか、ウクライナ軍が意図的にこうした攻撃が実行できないような処置を講じているのではないかと推測される。

そして、展開できないロシア軍に対して効果的に使用されているのが、携帯式対戦車ミサイルFGM-148ジャベリンや、携帯式対空ミサイルFIM-92スティンガーではないだろうか。

狭い範囲に蝟集してしまった戦車や装甲戦闘車は、1両破壊されるだけで機動が大きく制限されてしまう。地上戦力と連携しない航空機等は、携帯対空火器に対する制圧が不十分なため照準等が比較的容易になり、撃墜される可能性を高める結果になる。このような負の連鎖が戦場で発生している可能性は十分にあると考えられる。

 

相当の戦力を失っていた…

戦闘の長期化による兵員の疲労、大儀なき侵略戦争から来る士気の低下などによって、ロシア軍の損耗も増加してきている。

軍事関連サイト「Oryx」が集計した3月10日時点でのロシア軍の累積喪失装備は、戦車164両、歩兵戦闘車129両、装甲兵員輸送車47両、装甲牽引車57両、空挺用装甲兵員輸送車28両、自走砲25両、ロケット砲19両に上っている。

ポーランドの「Defence24」は、これを基に換算分析し、米陸軍が使用している判定基準に沿って整理したところ、10個BTGが装備の50%を喪失して判定はstatus-BLACK、2個BTGが戦闘力の50%を喪失してstatus-BLACK、10個BTGが全ての戦車と戦闘力の30%を喪失してstatus-REDとなった。

一般的には、軍の組織化された単位の戦闘力が30%低下すると、その単位は効果的な戦闘を継続できないと判断される。したがって、22個のBTGが戦闘継続不能と判断されたことになる。ウクライナ侵攻に投入されたロシア軍は、117個BTGと見積もられていることから、その約19%を喪失したことになる。

それぞれのBTGは独立して戦闘していることから、この喪失がそのままロシア軍の戦闘能力判定になることはないが、相当の戦力を失ったことで、ロシアの侵攻がさらに阻害されることは確かである。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修

防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

写真:ロイター/アフロ

米内 修

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2021年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

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