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2024.07.23 外交・安全保障

岩﨑元統幕長が語る「日英伊・戦闘機開発」の舞台裏

岩﨑 茂

 日本政府は3月に日英伊の3カ国が共同開発・生産する次期戦闘機の第三国への輸出を解禁するため、防衛装備移転三原則の運用方針を改正。2035年頃の配備に向けて各国政府と企業による調整が本格化する。また、日米両政府は自衛隊と米軍の部隊連携を円滑にするとともに、25年3月末をめどに陸海空自衛隊の部隊運用を一元的に指揮する「統合運用司令部」を創設し、その中心に「統合司令官」を据える。そこで、12~14年に第4代統合幕僚長を務めた岩﨑茂氏に、戦闘機共同開発の舞台裏に関するほか、日米の部隊連携を巡る現状や課題について述べてもらった。

※本記事は、2024年6月12日開催の「地経学サロン」 の講演内容をもとに構成したものである。(構成:一戸潔=実業之日本フォーラム副編集長)

日本は3機種の戦闘機で防衛

 航空自衛隊(空自)は長い間、戦闘機に関して「3機種体制」を取っています。日本が保有する戦闘機数はごく限られていますので、1機種に統一した方が、維持費や管理の面でメリットがあります。しかし、強靭性や柔軟性などを考慮すれば大きな問題があります。例えば、主翼や胴体など基本構造部材に欠陥が生じた場合、1機種であれば全ての機体が飛行できなくなり、平時での対領空侵犯措置任務はもちろんのこと、有事の防空戦闘にも支障をきたす恐れがあります。それを回避するには複数機種が必要になります。3機種で運用すれば、ある機体に構造的な不具合が起きても、他の2機種での運用が可能となります。実際には、全基地に3機種配備している訳ではないので、仮にどの機種かに不具合が出れば、別の基地から機動展開させ、対領空侵犯措置等の任務に就きます。

戦闘機の後継準備に10~20年必要

 現在、空自ではF-2、F-15、F-35 の3機種を保有しています。2035年頃から退役・減勢が始まるF-2 ついては次期戦闘機の導入が必要とされ、2010年頃からその準備を考え始めていました。戦闘機の後継機の選択肢としては、(1)海外からの購入、(2)自国での開発・製造、(3)他国との共同開発・製造が考えられます。それぞれ準備・開発期間は異なりますが、戦闘機は最新技術の粋を集めた装備品のため、これまでの経験から最低でも10年程度、場合によっては20年近くかかることもあります。

 F-2後継機の前にF-4の後継機選定に関して説明します。空自は長年、3機種体制を取ってきました。さらに、その3機種は国内産業育成の観点から、少なくても1機種は国内開発または他国との共同開発が望ましいと考えていました。2000年に入り、空自としてF-4の後継機を検討し始めないといけない時期でした。その当時、世界最強の戦闘機と言われたのが米国のF-22です。このF-22の導入を模索しましたが、極度に高いステルス性を備えていたなどの理由で、米国にはこの機体を他国に輸出しないという法律がありました。仮に日本がその戦闘機を導入する場合には、この法律の解除が必要となります。

 米議会の議員に理解を得て解除をするため2年間活動を続けましたが、上院では解除法案が通過したものの、下院では通過しませんでした。そして、2009年に当時のゲーツ国防長官が将来の戦闘を踏まえて今後の装備品の中心は対テロ用の無人機やヘリコプターが中心になると考え、戦闘機はF-35のみとし、F-22の生産中止を決定したのです。これによりF-4の後継機としての選択肢の中からF-22が消え、空自はF-35を選定しました。

 次に、2030年代中頃から退役が見込まれるF-2の後継機についてです。最近の各国の戦闘機を見ると、かなり高度な技術を備え、経費も莫大にかかります。F-2を開発したのは約40年前ですが、当初予算として1650億円を計上していました。しかし、開発が完了した後、政府が公表した開発費は約3400億円。これは為替などの影響もありましたが、開発途中の諸問題解決などに経費が掛かりました。今後、科学技術の頂点を極める第5世代以上の戦闘機を開発するには、経費が膨らむことが簡単に予測されます。1カ国のみでの開発にはかなりの困難が予想されます。そのため、複数国で開発すれば契約内容にもよりますが、かなりのコスト軽減が期待できます。

「フライトソースコード」で装備品に拡張性

 F-2後継機のFX開発計画は当初、日米政府間、空自と米空軍、そして民間レベルでの議論を重ねていましたが、結果的に折り合いがつかず、協議は中断となりました。ちょうど、その時期に英国のテンペストと次世代戦闘機を開発するという動きもあり、そこにイタリアも合流することになりました。イタリアは日本より早くF-35の最終組み立て・検査施設(FACO)を米政府から認められ生産を行っています。これは、米政府がイタリアの高い技術力を認めていたからでしょう。

 日本は、F-2を巡る米国との共同開発・生産から数多くの教訓を得ました。F-2はFS-Xとして、米国のF-16の改造開発を基本に進むことになったわけです。日米交渉の結果、F-16に関するほぼ全てを開示するとの約束で開発が開始されました。しかし、米議会がF-16の中枢部にあたる「フライトソースコード」は極めて秘匿性が高いことを理由に、日本への開示承認が得られませんでした。日本側としてはFS-X開発を断念することはできなかったので、国内の総力を結集してフライトソースコードを自力で開発・生産することに成功しました。

 当初、プログラムに数々の不具合はありましたが、少しずつ改修していくことでF-2は世界に誇ることができる素晴らしい戦闘機に育ってきています。このフライトソースコードは機体の頭脳中枢に相当する部分であり、国内開発したことでF-2搭載の各種装備品の入れ替えやミサイルなどの弾種を拡大する際、米国の許可は必要なくなり、F-2の能力向上(拡張性)を日本独自で行えるようになったのです。戦闘機のみならず全ての装備品は、時間と経過とともに陳腐化し、時代の変化が激しい現代では、その速度も大きくなっています。その際、この「拡張性」、それも迅速に行うことが極めて重要な要素になっています。

海外の装備品売り込み工作で惨敗

 私は、自衛隊の装備品が海外へ移転される可能性があるのは、空自のC-2もしくは海上自衛隊(海自)の対潜哨戒機P-1、さらに海自のUS-2だと思っていました。英国海軍がP-1にとても興味を持っていましたが、最終的には米国製のP-8に競い負けました。この最大の原因は、日本全体として海外への防衛装備・技術移転に慣れていないからではないかと思います。例えば、日本製の自動車は大変人気があり、たくさん販売されています。しかし、防衛装備品の海外展開は、当時の野田政権でようやく窓が開かれ、2015年の安倍政権でさらに拡大されて現在に至っています。ただ、海外展開のノウハウはまだまだ不十分です。

 諸外国のやり方を見ると、政府、国防省、その隷下にある軍隊、さらに企業を含め、これらが一体となって、他国に宣伝して最終的に採用してもらうわけです。例えば、私が統幕長時代にオーストラリアが海外から潜水艦を導入するとの事で入札が開始されました。手を挙げたのが日本の他に、フランスとドイツでした。ある時、私がシドニー国際空港に到着すると、通路にはフランスの潜水艦を宣伝する巨大な垂れ幕が飾られ、さらに進むと今度はドイツの潜水艦の垂れ幕が目に入ってきました。残念ながら日本の潜水艦の宣伝は何一つありませんでした。

 仏独の企業は当時、オーストラリアに現地法人を設立し、豪州の国防省や海軍で装備品の調達に携わったOBを雇っていました。豪海軍が今回の潜水艦に何を求めているか知るため、そして豪での手続きに慣れている元軍人などからアドバイスを受けるためです。一方で、日本は時々、現地に要員を派遣し、情報収集し、豪海軍の最低限の要求に応える程度でした。厳しい国際競争に勝つためには、装備品の性能が高いことも必要ですが、それ以上にいろいろなノウハウが必要と諭されました。

 また、インドは海自が運用しているUS-2に興味を示していましたが、インドでは多くの国々が政策として掲げている「オフセット条項」もあり、いまだに実現していません。今後、防衛装備・技術移転を成功させるためには、防衛省、特に防衛装備庁が中心になり、経産省、外務省と一体となって様々な宣伝工作が重要になると思います。

大震災で統幕長が獅子奮迅の働き

 陸海空の3自衛隊の統合運用は2006年3月に開始されました。それ以前は、自衛隊の運用は各自衛隊が各個に行い、各自衛隊の関係は「協力関係」でした。これでは、現場では各自衛隊の諸事情が最優先され、最も効率よく運用されない可能性があることが指摘されていたのです。検討に検討が重ねられ、06年3月以降、運用に関する活動は全て新設された統合幕僚監部(統合幕僚長)が担うことになりました。当時から統幕長のみならず統合司令官・統合司令部も必要ではないかという議論もありましたが、統幕長・統合幕僚監部の立ち上げが優先され、自衛隊の統合運用が始められたのです。

 しかし、5年後の東日本大震災の際に統幕長は大変な業務をこなすことになります。本来の統幕長の主要な責務は総理大臣、防衛大臣を安全保障面から補佐することですが、東日本大震災では統合任務部隊(JTF)が編成され、この指揮官となる東北方面総監への防衛大臣の命令等を伝えるとともに、JTF指揮官の指導にもあたる必要がありました。通常、統幕長は防衛省の指揮所で勤務しますが、官邸での会議や総理大臣報告が頻繁に行われるとともに、米軍が編成したJSF(Joint Support Force、横田基地所在)司令官との調整なども行わなくてならず、獅子奮迅の対応でした。

 これはあくまでも平時における災害対応でしたが、武力侵攻事態(戦争)を考えれば、統幕長は、これよりも状況は複雑、困難を極め、時々刻々と変化する事態に対応しなければいけません。一方で、総理大臣や防衛大臣などを支える必要があるため、「統幕長は本当にこの2役をできるのか」という疑問が現実のものとなったのです。

円滑な部隊運用には統合司令官が必須

 これまでは、統幕長の米軍側のカウンターパートは少なくても3人おります。まず第1は横田基地の第5空軍司令官を兼務する「在日米軍司令官」、2人目がハワイに所在する「インド太平洋軍司令官」、3人目が米国の統幕長に相当する「統合参謀本部議長(統参議長)」です。同盟国である米国とは、国レベルでは統参議長といろいろな意見を交わし、調整を行います。運用レベルでは、インド太平洋司令官と調整します。この際、米国との時差(ワシントンD.C.とは約半日、ハワイとは19時間)を踏まえた対応が求められます。有事の際には統幕長1人でこの3人のカウンターパートと刻々と変化する作戦に応じて調整することは極めて困難です。

 こうしたオペレーションや各レベルの調整などに関しては、統合司令部を新設して統合司令官に任せることができれば、統幕長が総理や防衛大臣の補佐に専念できるのではとの考えから検討した結果、2022年12月の戦略3文書に明記され、25年3月末をめどに東京・市ヶ谷に統合司令部を創設するということで現在準備が進んでいます。

 一方、米側も日本周辺での運用要領(指揮統制系統)を見直し中です。横田基地に所在する現在の在日米軍司令官は、在日米軍の4軍種の代表ではありますが、第5空軍司令官としての立場で三沢や横田、嘉手納に所在する米空軍に指揮・命令の権限を保有してりますが、第7艦隊や座間所在する米陸軍、沖縄の第3海兵師団については指揮権限を持っていません。そのため、現時点では運用に関して統幕長は、在日米軍との調整を4軍の指揮官と調整しないといけません。仮に日本側が統合司令官を新設しても、この状況は変わりません。

 そのため、米側も4軍の指揮・統制が可能な新司令官を新設するのか、現在の在日司令官にその権限を与えるのか、新司令官の階級をどうするかなど検討していると聞いています。有事の際の日米間の調整を緊密にするために、日米の司令官が「サイド・イン・サイド」に座り、共通する画面を見ながら双方の運用を行う体制が理想ではないかと考えています。

 現時点では、防衛省では統合司令官を支えるスタッフを当面200名程度見込んでいるとのことです。ただし、これは平時運用の人数と考えられます。有事の際には、24時間態勢で、かつ全力で臨むことなどを考慮すると、かなりの勤務員が必要となるでしょう。また、米軍側も同様で、かなりのスペースが必要です。日本周辺での安全保障環境を考慮すれば、各種施策を早急に進めることが重要となります。

地経学の視点

 戦闘機の後継準備にこれほどの膨大な時間と巨額の予算が必要であることは、一般的にはなかなか耳にできないことだ。経済的なメリットを享受するうえで、1国だけでなく他国と共同で開発し、第三国に輸出するという流れは十分理解できる。

 こうした中、戦闘機に搭載するコンピューターの中枢となる「フライトソースコード」の権限を日本が独自に保有することに成功し、装備品の入れ替えやミサイルなどの弾種拡大を柔軟にして戦闘機の性能向上(拡張性)を実現させたという岩﨑氏の指摘はとても興味深い。また、独仏のような防衛装備・技術移転に関し官民一体で強力に推進する体制や、インドのオフセット条項のような国益を向上させる交渉術など海外の先行事例は一考に値する。

 殺傷能力のある武器を輸出するのは「死の商人」と批判され、世論の理解を得にくかった。だが、ウクライナや中東など各地で紛争が相次ぎ、中国の海洋進出が活発化する中、日本にとっても安全保障体制や防衛力の強化は重要な課題。今回の戦闘機の共同開発や海外展開はその大きな一歩になるだろう。(編集部)

岩﨑 茂

ANAホールディングス 顧問、元統合幕僚長
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

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