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2018.07.12 特別寄稿

原始貨幣とビットコインは共通点が多い?
仮想通貨のゆくえと日本経済vol.1

中川 博貴

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ』(4月28日発売)の特集『仮想通貨のゆくえと日本経済』の一部である。また、8月3日発売予定の書籍『ザ・キャズム~今、ビットコインを買う理由~』(フィスコIR取締役COO/フィスコファイナンシャルレビュー編集長 中川博貴著)のダイジェスト版となる。全14回に分けて配信する。



ビットコインは、この世に誕生してからまだ10年も経過していない。2017年に最大20倍以上に膨れ上がったビットコインの価格を見て「中世オランダのチューリップ球根以来のバブル」だと評する声もあったが、これはバブルなのだろうか。ビットコイン投資に機関投資家が本格参入している今、その将来性を悲観するのは早計であろう。貨幣の歴史そのものに立ち返ることで、仮想通貨の本質的価値とその未来、これから日本経済が進むべき道を探る。


貨幣の歴史と、米国による世界支配


人類の歴史で数千年間にわたり、通貨の本質は不変である


貨幣とは、財・サービスの取引から発生する債権と債務を管理しやすくするための信用取引を、通貨で決済するシステムである。ビットコインをはじめとする仮想通貨は、目に見えないデジタルデータであり、インターネット上でのみやりとりされ、しかも国家が発行し、中央銀行が管理しているわけではない。これは果たして「通貨」「貨幣」と呼べるものなのだろうか。

人類が獲得した画期的な「ブロックチェーン」は、中央に管理者がいなくとも、利用者の相互監視によって「改ざん不可能なデジタルデータ」を形成し、担保する最新技術である。このブロックチェーンに基づいて創られた仮想通貨も、その本質をたどれば、原始的な貨幣とよく似た性質を持つことがわかる。むしろ、最初から貨幣の本質を意識しながら創られたと思えるほど、仮想通貨は「通貨らしい」通貨だといえる。


人類史上で「物々交換経済」が存在したかは疑わしい


現代人の多くが「物々交換経済の進化形が貨幣経済である」との認識を、漠然と共有している。古代には貨幣が存在せず、人々は物々交換によって必要な物資を手に入れていた。しかし、物々交換は効率が悪いため、何らかの価値がある物品を交換手段として仲介させ、その物品が貨幣の原型であるとする。

しかし、学問上は、そもそも物々交換経済が成立していた社会など、過去のいずれの時代に存在していたのかすら疑わしい、とのコンセンサスが今世紀に入ってから形成されつつある。

「物々交換の非効率性を解決するために、貨幣が発明された」という従来の通説も、一種の物語としてはたしかに興味深い。だが、学問的に裏づける根拠がなく、われわれの共同幻想にすぎないのかもしれない。むしろ、人類はかなり早い段階で貨幣の必要性に気づいていた可能性が高い。


貨幣の本質は「帳簿」である


1856年、ミクロネシアのヤップ島でヨーロッパ人によって発見された石貨「フェイ」は、より進化した形で近代に残っている原始貨幣である。平べったい円筒形に加工されたフェイは、直径30センチから3メートルほどのものまであり、重さは最大で約5トンもある。よって、人々が日常的に持ち運ぶのはほぼ不可能な通貨だ。

そこで、フェイは島民の債権・債務関係を記録した「帳簿」とセットで使用される。食料や日用品などの取引で生じた債権と債務の関係を互いに相殺し、1日の終わりごとに決済を行い、差額は翌日に繰り越される。フェイの所有権は、日常的には帳簿上だけで移転する。すなわち、ヤップ島の島民は当時から、帳簿上の数字の変化だけで決済を完結させる「信用取引」を実施していたのである。

石貨フェイは、いわば帳簿上の記録の裏付けとなる代用通貨(トークン)の役割を果たしていたのである。



原始貨幣とビットコインは、一皮むいたら共通点が多い


ビットコインなどの仮想通貨が、誰から誰へいくら渡ったのか、それまでの取引すべてが記録されているブロックチェーンは、別名で「分散型台帳」と呼ばれている。デジタルデータの上に乗った帳簿そのものである。しかも、分散している台帳すべてに対して偽造を行うことが極めて困難なので、ブロックチェーン上の内容が社会的に信認されている。ブロックチェーンに記録された仮想通貨の帳簿は、世界中のコンピュータに分散管理されている。そのため、ハッキングなどの不正な操作があれば、すぐに発覚するのである。

これは大変画期的な仕組みだ。しかし、基本的な全体構造は、ヤップ島で石貨が帳簿上で移転していたりしていた頃と何ら変わらない。歴史に学べば「仮想通貨は貨幣システムそのものである」と言い切れる。


(つづく~「仮想通貨のゆくえと日本経済vol.2 新しい貨幣を発行する「うまみ」【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)



フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
シークエッジグループ代表 白井一成
フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ取締役 中村孝也

【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。

中川 博貴

株式会社クシム代表取締役
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の設立メンバーとして当時より参画。 公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。 環境省「持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会」委員(2015〜2017)。 IR専門誌「フィスコファイナンシャルレビュー」編集長(2017〜2019)。 著書に「ザ・キャズム 今ビットコインを買う理由」がある。

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