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2022.06.24 経済金融

プラットフォーム企業規制でも最高益達成 中国最大級「6.18セール」の裏側

実業之日本フォーラム編集部

 7日、中国株に投資する上場投資信託(ETF)の「iシェアーズ・MSCI・チャイナETF(MCHI)」への資金流入が約2億7000万ドル(約360億円)を超えて72億ドル(約9784億円)に達した。1日の流入額としては2011年の設定以来最大だ。

 海外からの資金流入が加速する中国経済だが、その背景には次のような要因が考えられる。6月1日の中国・上海のロックダウン(都市封鎖)解除後に政府によって打ち出された各種経済支援措置や、対外貿易成長率の回復、5月末時点の社会融資総量(銀行融資以外に、新規株式公開や信託会社の融資、債券発行を含む)残高の予想外の増加などだ。これにより国内外の投資家心理は改善傾向となり、売り込まれた中国株の買い戻しの動きが活発化するなど、中国・香港両市場ともに底堅い値動きを見せていた。

 本稿では前回の記事<日本EC市場とはここが違う!中国の「急拡大中ネットショップ」を徹底解析>に続いて、「独占禁止法」によって規制強化されつつあるEコマース(電子商取引)企業の経営状態を解析する。

アリババ傘下「アリクラウド」、ユーザー数13億人突破

 まず、中国EC最大手「アリババ集団」の22年3月期通年決算をみると、売上高は前年比19%増の8530億6200万元(約17兆円)、純利益(財務会計上の数値GAAPから非経常項目やその他特定の調整項目を除外・調整したNon-GAAPで算出)は前年比21%減の1363億11万元(約2.7兆円)だった。

 2021年末時点で世界の年間アクティブユーザー数は約13.1億人に達し、前年よりも1.77億人増加。うち中国国内ユーザーは1.3億人、海外ユーザーは6400万人となっている。

アセアンでのIaaSシェアは首位に

 中国の大手Eコマース企業は、米国IT企業などと同様にIaaS(イアース)分野でのサービス提供を安定的な利益の源泉にしている。最大手のアリババグループが提供するのが「アリクラウド(阿里雲)」だ。

 グループの核心的戦略の一つであるこのサービスの21年売上高は前年比21%増の1001億8000万元(約2兆円)と初めて1000億元の大台を突破。EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)は前年の22億5100万元(約450億円)の赤字から11億4600万元(約230億円)へ大幅に改善。うち対外向けサービス提供の収入は746億円(約1.5兆円)で、2015年の12.71億元(約235億円)から2022年の約746億元(約1.5兆円)までの8年間で57倍にまで成長し、設立から13年目にして初の通期黒字を実現した。

 クラウド上でサーバーなどのインフラを提供するIaaS分野における、アリクラウドの21年のグローバル市場シェアは3位の9.55%。マレーシア・インドネシア市場ではそれぞれ29.2%、22.92%のシェアを誇り、アセアン諸国全体では25.53%で首位に立つ。

世界(2021)IaaS市場
ランキング企業名IaaS売上高市場シェア
1位AWS(米・アマゾン)4兆7380億円38.92%
2位Azure(米・マイクロソフト)2兆5659億円21.07%
3位アリクラウド(中・アリババ)1兆1600億円9.55%
4位GCP(米・グーグル)8653億円7.08%
5位ファーウェイクラウド(中・ファーウェイ)5630億円4.61%
6位テンセントクラウド(中・テンセント)3473億円2.84%
グローバル市場全体12兆2143億円100%
世界のIaaS市場 為替レート;(1元=20.10円)データ出所:Garter, Market Share:IT Service, Worldwide,2021

アセアン(2021)IaaS市場
ランキング企業名IaaS売上高市場シェア
1位アリクラウド(中・アリババ)1兆1375億円25.53%
2位AWS(米・アマゾン)7038億円15.80%
3位Azure(米・マイクロソフト)6234億円14.03%
4位ファーウェイクラウド(中・ファーウェイ)5325億円11.95%
5位テンセントクラウド(中・テンセント)3418億円7.67%
アセアン市場全体4兆4562億円100%
アセアン諸国のIaaS市場 為替レート;(1元=20.10円)データ出所:Garter, Market Share:IT Service, Worldwide,2021

  

 米調査会社ガートナーが昨年公表した「21年のクラウドコンピューティングIaaSの世界市場シェアデータ」上記データによると、IT大手アマゾン・ドット・コムのクラウド事業であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やグーグルのGoogle Cloud Platform(GCP)、マイクロソフトのAzure(アジュール)の米クラウドサービス大手3社の21年売上高は、それぞれ前年比37.1%増の622.02億米ドル(約8.3兆円)、47%増の192.06米ドル(約2.5兆円)、27%増の677.84億米ドル(約9兆円)となった。アリクラウドの売上高は、首位のアマゾン・ウェブ・サービスの4分の1にしか満たないことがわかる。

 アリババの本決算説明会では、今後3年間で60億元(約1200億円)以上を投じてインフラを拡張する計画が発表されているが、ここ数年、中国の大手インターネット企業は、東南アジア諸国へ積極的に人員・資金を投入するなどして海外展開を始めている。

中国クラウドサービス市場、3.6兆円に達する

 アリクラウドの有料会員数は22年3月末時点で400万人を突破。世界27地域でデータセンターを開設し、約84か所のアベイラビリティー・ゾーン(利用可能なサービスセンター)を提供する。さらに、インドネシアやフィリピン、韓国、タイ、ドイツにデータセンターを新設するなど、アジア最大規模のクラウドインフラを持つ。

 一方、中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)のテンセントクラウドは世界27地域でデータセンターを開設し、約70か所のアベイラビリティー・ゾーンを提供。ファーウェイのファーウェイクラウドは世界に約61か所のアベイラビリティゾーンを有している。

 英国の調査会社Canalysによると、21年の中国クラウドサービス市場は前年比45%増の274億米ドル(約3.6兆円)と、好調な伸びを見せている。

ランキング企業名市場シェア売上高前年比
1位アリクラウド37% (+30%)2兆円21%
2位ファーウェイクラウド18%(+67%)4055億円34%
3位テンセントクラウド16%(+55%)非開示
4位バイドゥクラウド9%(+55%)3046億円64%
合計80%
2021年国内市場シェア・売上高(1元=20.10円)

  

一方、すでに東南アジアへ進出している中国企業の動きは早く、4月にはテンセントクラウドがインドネシアで初めてデータセンターの運用を始めた。ファーウェイクラウドは3月、グローバルビジネスを支援する新たなソリューション(Boosting)を発表している。そのほかにも、中国最大のデータセンター運営の万国数拠控股が昨年、東南アジアへの進出を公表した。このようにアセアン諸国では他の中国企業の進出も目立っており、競争環境は激化する一方だ。

600億円以上の「地域クーポン券」発行

 6月の中国・上海のロックダウン(都市封鎖)解除により、企業の生産活動は全体的に回復傾向にある。各地方政府はコロナ禍で低迷した内需を促進するため、多くの地域で商品の割引につながる「消費券」や、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の利用時に使える「デジタル消費券」の配布を開始した。

 今年1~4月までには四川省や陝西省、天津市等の20省・市・自治区・直轄市で「販売促進活動」や「行動規制の緩和」、「税制優遇措置」等の振興策が進められ、総額約34億元(約687億円)分もの消費券を発行した。

6.18セール「京東」取引額は7.6兆円で最高更新

 こんななか、アリババが運営する中国最大のネット通販セール「独身の日(11月11日)」に次ぐ「6.18セール」が開催された。6.18セールは、中国ネット通販2位の京東集団(JDドットコム)が毎年6月18日に開催する恒例の大型セールだ。

 中国ビッグデータ大手スターチャートのデータによると、6.18セール開催期間におけるオンライン取引総額は6959億元(約14兆円)に達しており、うちEコマース全体での取引額は前年比わずか1%増の5826億元(約11.7兆円.)で、伸びは鈍化気味だ。実演販売だけでなく生産者と消費者をライブ配信でつなぐ「ライブコマース」による取引額は、前年比124%増の1445億元(約2.9兆円)と大幅な伸び率を維持している。

 6.18セールには京東集団だけでなく競合他社も参加し、大幅値引きされた商品が数多く出品される。22年の京東集団の流通総額(GMV)は前年比10.3%増で3793億元(約7.6兆円)となった。一方、競合のアリババやネット通販大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)の販売成績は公開されていない。中国の独占禁止法を基にしたプラットフォーム企業規制は強化されており、多くのEコマース企業が宣伝活動を弱めているためだ。

 一方で、中国科学技術部(MOST)の王志剛部長は6日、「ニューエコノミー(新経済)産業発展の策励は重要な位置づけにある」と述べ、ハイテク産業への締め付けを緩和していくことを示唆しており、規制環境は緩まっていく可能性もある。今後、中国のEコマース企業がどのように対応していくのかに注目したい。

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

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