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2021.01.14 安全保障

暗号資産投資の意義(3):金へと変貌する暗号資産

中村 孝也

「暗号資産投資の意義(2):デジタル資本革命」では、デジタル経済を支えるためのデジタル通貨の必要性を紹介した。今回は「金へと変貌する暗号資産」について述べてみよう。

「質への逃避先」という位置づけからも暗号資産への注目が高まっている。米中貿易戦争といった地政学的リスクの高まりやコロナショックによる悪影響など不透明感が強まる環境下、リスク回避の動きとして安全資産への逃避先として金価格が上昇してきた。暗号資産、とりわけビットコインは金との類似性がよく指摘される。例えば、ビットコインの発行上限が2,100万枚と上限が決まっているのに対して、金も埋蔵量には限りがある点や、ともに(原資産そのものには)金利が付かないという点などだ。こうした背景を考慮すると、安全志向の高い金の投資家ら分散投資の一環として暗号資産市場に注目する可能性は十分にあろう。2019年の金採掘量の時価総額は9兆1,500億ドルであり、全体の1%が暗号資産へ資金流入した場合は915億ドルの資金流入が見込まれる。

また、BISの「What share for gold?」は、純粋に定量的な観点から中銀による大規模な金の保有が正当化されると主張している。世界の国際機関や中央銀行も金を保有しており、全体の金保有推定残高は1兆1938億ドルとなっている。内訳をみると、FRBと(ECBを含む)ユーロ圏の主要中銀による保有が全体の66%を占めている。仮に、FRBとユーロ圏主要中銀が暗号資産を外貨準備高の一部として保有した場合、最大で7,800億ドルの資金が暗号資産市場に流入することも想定できる。

さらに、世界の個人金融資産の一部が暗号資産市場にシフトした場合、暗号資産市場にはどのくらいの資金が流入するのかを考えてみよう。ボストン・コンサルティング・グループ「2020年版グローバルウェルス・レポート」によると、2019年の世界家計金融資産は226.4兆ドルである。仮に総額の1%が暗号資産市場に流入した場合、その規模は約2兆ドルに達する。

日本の個人金融資産残高は17.6兆ドルである。日本の個人金融資産残高はじりじりと拡大しているが、その54%が現金・預金であり、暗号資産市場への資金流入余地は大きいだろう。全体の1%が流入すれば1,800億ドルという計算である。また、長期的にETF(上場投資信託)が誕生すれば金融商品としての暗号資産の魅力はより増すだろう。そうなれば、全体の10%である1兆8000億ドルが流入するという可能性すら夢物語ではなくなってくる。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。