コロナショックが不平等度に与える影響については、両方の見方があるようだ。「Will Covid-19 affect inequality? Evidence from past pandemics」は、伝染病の結果、不平等度は拡大すると主張する。2000年以降に出現したSARSなど5回のパンデミックの影響を分析し、それが(1)ジニ係数の上昇、(2)高所得者層の所得割合の上昇、(3)教育水準の低い人の就業率の相対的低下、をもたらしたことを示した。コロナの場合には、影響はより大きいかもしれないと結論付けている。
一方、「Longer-run economics consequences of pandemics」は、伝染病の結果、不平等度は縮小すると主張する。14世紀の黒死病以降に出現した15回のパンデミックを取り上げ、それが自然利子率を大きく引き下げる効果をもたらしたことを示した。自然利子率が大きく引下げられたのは、労働力の減少によって実質賃金が上昇し、資本と労働の相対的な収益率が変化したからと説明している。
両者の違いは分析対象の差にあるようだ。前者では、感染対策のために経済活動が縮小したことなどから労働需要曲線がシフトし、非熟練労働者を中心に賃金はむしろ低下したようなパンデミックが対象とされた一方、後者では、人命の喪失のために労働供給曲線が大きくシフトし、賃金が上昇したようなパンデミックが対象となっている。これらの分析が共に正しいという前提のもとでは、コロナショックによる悪影響が軽微のうちは不平等度が拡大するが、悪影響が甚大となれば不平等度は縮小するという可能性が考えられよう。
(株式会社フィスコ 中村孝也)