世界的な気候変動と異常気象に対抗すべく、「脱炭素化社会の実現」に向けた取り組みが行われている。BPの「Energy Outlook 2020 edition」では、世界のエネルギー転換を形成する影響力と、そのカギとなる不確実性について考察し、Rapid、Net Zero、Business-as-usualの3つのシナリオにおける経済見通しを提示した。
1つ目のRapidシナリオは、炭素価格の大幅な引き上げと、よりターゲットを絞ったセクター別の対策を中心とした一連の政策措置が提示され、2050年までにエネルギー使用による炭素排出量が約70%削減されるというものである。IPCCによる、2100年までの世界の気温上昇を産業革命前のレベルから2℃以下に抑えるというシナリオと合致し、メインシナリオに近い位置づけであろう。
2つ目のNet Zeroシナリオは、Rapidシナリオでの政策手段がさらに強化され、炭素排出量の削減がさらに加速し、エネルギー使用による世界の二酸化炭素排出量が2050年までに95%以上減少するという想定である。こちらはIPCCによる1.5℃の気温上昇シナリオと合致する。3つ目のBusiness-as-usualシナリオは、政府の政策、技術、社会的嗜好が、これまでと同程度の速度で進化することを前提としている。炭素排出量は2020年代半ばまでにピークに達すると見られるが、2050年のエネルギー使用による二酸化炭素排出量は2018年のレベルを10%弱下回る程度にとどまる見込みである。
世界のGDPの年間成長率は年平均約2.6%とされた。2050年までに世界の人口は20億人以上増加して約96億人となり、生産性(一人当たりGDP)の向上、ひいては繁栄(一人当たり所得増)によって、展望期間中の世界GDPの拡大の約80%が牽引されることが見込まれている。そこに気候変動の影響が加わるわけだが、3つのシナリオすべてにおいて、2050年のGDP水準は約5%低下するという見通しとなった。気温上昇によるマイナスの影響は、炭素排出量の削減がほとんど進まないBusiness-as-usualシナリオで最も大きくなるが、一方、RapidやNet Zeroでは排出量削減のために実施される政策の先行費用が生じるため、今後30年間でGDPへの影響がほぼ変わらないとのことである。
(株式会社フィスコ 中村孝也)