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2020.05.27 外交・安全保障

中国通貨スワップの二面性

中村 孝也

2013年以降に中国が通貨スワップを締結したのは、40中銀、総額は3.7兆人民元(0.5兆ドル)に上る。2016年以降に契約締結が確認できたものに限定しても、総額は3.5兆人民元となる。引出限度額が大きい国・地域は、香港(4,000億人民元)、韓国(3,600億人民元)、ECB(3,500億人民元)、イギリス(3,500億人民元)、シンガポール(3,000億人民元)などである。

日本も、2018年に中国と2,000億人民元の通貨スワップを締結した。通貨スワップの契約内容の詳細が公表されているわけではない。日本銀行のリリースでは、日本銀行は2,000億人民元を、中国人民銀行は3.4兆円が引出限度額と明記されている。必要になった際には、日本は人民元を、中国は円を引き出すことになる。

中国の通貨スワップは二つの側面を持つ。中国が助ける側に回るケースと、助けてもらう側に回るケースである。中国は一帯一路外交を積極展開してきた。「習近平が外国を訪問する時に必ず要求する3つの神器」として、「人民元取引システムの構築」、「通貨スワップ協定」、「適格外国機関投資家の限度枠撤廃」が指摘されており、中国の通貨スワップ協定は、人民元の国際化、あるいは一帯一路沿線国における人民元の普及も念頭に置かれている。上記のうち中国の影響力が大きいと想定される「一帯一路沿線国+香港・マカオ」で22ヵ国・地域、人民元の引出限度額の1.5兆人民元を占める。香港、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ロシアの引出限度額はそれぞれ1,000億人民元を上回る。

他方、中国が締結している通貨スワップのうち、人民元よりも市場シェアが大きいメジャー通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド、豪ドル、カナダドル、スイスフランの7通貨)の引出限度額の合計は、通貨スワップ総額(3.7兆人民元、0.5兆ドル)のうち1.45兆人民元(0.2兆ドル)に限られることになる。中国のドル債務総額(0.5兆ドル)と比較するとやや心許ない面もあろう。

中国の通貨スワップは、3年ほどの周期で定期更新されているものが多いが、かなり前に締結されたもので、直近の状況が不明なものも若干存在する。「2017年締結組(2020年更新組)」の中では、香港、韓国、カナダ、ロシア、スイスといった金額が大きい国・地域との契約がロールオーバーされていくかが注目されるところであろう。より興味深いのは2021年である。「2018年締結組(2021年更新組)」には、新型コロナウイルス問題を巡って中国との関係が悪化しているオーストラリア、イギリスが含まれる。日本も「2018年締結組」であり、通貨スワップの有効期限は2021年10月25日と定められている。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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