FRBは、日銀、ECB、BOE、スイス中央銀行、カナダ中央銀行の5中銀と「無制限」で「無期限」の通貨スワップ協定を締結している。また、オーストラリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ニュージーランド、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポールの9中銀とは「一定金額以内」で「6ヵ月以上」のスワップラインを取り決めている。
通貨スワップ残高は、3月18日時点の4,500万ドルから5月21日時点では4,483億ドルに増加した。残高が大幅に増加したのは、3月19日、3月26日であったが、4月に入るとほぼ横ばいで推移している。残高の内訳は、主要5中銀が4,020億ドルで、残り9中銀が562億ドルを占める。国別には、日本(2,258億ドル)、ECB(1,431億ドル)、イギリス(231億ドル)、韓国(188億ドル)などが大きい。
寿命が尽きつつある可能性も度々指摘されるが、現状でのドルは紛れもなく基軸通貨である。国際送金を担うSWIFTによると決済総額のうちドルの構成比は第1位の42.2%(金額ベースで2019年末時点、第2位はユーロで31.7%)、BISの2019 Triennial Central Bank Surveyによると為替売買代金に占めるドルの構成比は第1位の88.3%(200%換算でのシェアで2019年4月時点、第2位はユーロで32.3%)、IMFによると外貨準備高に占めるドルの構成比は60.9%(2019年末時点、第2位はユーロで20.5%)である。通貨スワップ締結国にとっては、無制限のドル供給を受けられるという安心感は非常に大きい。
他方、FRBを中心とした通貨スワップの枠組みに入っていない国は、ドルの流動性が枯渇する局面で、厳しい環境に置かれることが必至である。3月27日、トルコのエルドラド大統領は、歯止めがかからない外貨準備高の減少を受けて、「米連銀は(トルコを含む)全てのG20 加盟国とドル・スワップ協定を結ぶべき」と訴えた。しかし、これまでのところ、この要請は聞き入れられていない。アメリカも全ての国を救うことはできず、一種の「トリアージ(人口呼吸器をどの患者を優先するかという命の選別等)」がなされていると見ることもできるだろう。上記の通貨スワップ残高も、同盟国向けが4,217億ドルと大半を占めるという側面を有する。
BISによると、米国外におけるドル債務は2019年末時点で12.1兆ドルであり、2009年の6.1兆ドルからはほぼ倍増となった。そのうち3.9兆ドルが新興国のドル債務である。1,000億ドルを上回るドル債務を抱える国は、中国(5,060億ドル)、メキシコ(2,960億ドル)、インドネシア(1,790億ドル)、トルコ(1,780億ドル)、ブラジル(1,750億ドル)、サウジアラビア(1,650億ドル)、ロシア(1,450億ドル)、韓国(1,290億ドル)、インド(1,270億ドル)、アルゼンチン(1,140億ドル)、チリ(1,130億ドル)であるが、このうち韓国、ブラジル、メキシコは米国のスワップラインを受けており、当面の安心感は強いだろう。ちなみに、5月22日、アルゼンチンは約5億ドルの国債利払いに応じず、2014年以来9度目となるデフォルトが確定した。
なお、FRBによるFAQでは「スワップの使用をオーソライズするのは誰か?」という質問に対して「FRBは海外中銀によるスワップラインの引出要請に対して承認するか拒否する権限がある」と明記されている。金融面におけるドルを中心とした生殺与奪の権利は、かなりの部分が米国に委ねられていると言えそうだ。
(株式会社フィスコ 中村孝也)