グローバル化の進展を受けて、対GDP比で見た貿易総額は過去100年で大幅に増加した。スペイン風邪が流行していた1918年は23%であったが、2017年には53%となった。しかし、新型コロナショックがグローバルサプライチェーンの再考を迫っている。
国際決済銀行(BIS)とIMFは、既往のグローバルサプライチェーン拡大とインフレの関係を分析している。BISの「The globalisation of inflation: the growing importance of global value chains」(2016)では、サプライチェーンのグローバル化によって一つの製品の価格が国内要因だけでは決まらなくなりつつあり、インフレ率が年々グローバル要因に左右されやすくなったと主張している。GVC比率(財・サービス輸出に占める財・サービスの付加価値輸入の比率)は1990年の18%から2015年には25%に上昇した。1982~2006年の18ヵ国のITO(中間財貿易/GDP)とRGF(国内インフレに対する世界的スラックの相対的影響度) の関係からは、(1)グローバルサプライチェーンに統合された国ほどグローバルな要因に対する国内インフレの感応度が高い、(2)ITOが上昇するにつれ、国内インフレに対する世界的スラックの影響は増す、ことを見て取ることができ、中間財貿易がGDP比で10%pt上昇すれば世界の需給ギャップに対する国内インフレの感応度が0.87pt上昇すると結論付けている。
他方、IMFの「World Economic Outlook: Global Disinflation in an era of constrained monetary policy」(2016)は、金融危機以降の国際的な低インフレの拡がりの最大の要因は グローバル化と指摘している。低インフレがサービス部門より製造業、中でも貿易財で顕著であるため、アメリカ、中国、日本の製造業の低迷が輸入物価の低下を通じて貿易相手国にも低インフレのスピルオーバーをもたらしたと分析している。
上記の分析は「グローバルサプライチェーンの拡大がインフレ率を押し下げてきた」という文脈で引用されるケースが多いようだが、実際には「グローバルサプライチェーンが縮小すれば、国内のインフレ率は国内要因で決まりやすい」ことを主張している。コロナショックをきっかけに、グローバルサプライチェーンが縮小方向に向かうのであれば、将来的にインフレ率はより純粋に(国内需給などの)国内要因で決まりやすくなっていくのであろう。
(株式会社フィスコ 中村孝也)