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2020.04.10 外交・安全保障

鎖国の経済効果

中村 孝也

新型コロナウイルス禍の世界経済は鎖国に向かっているような印象も受ける。世界各国が入国制限を行っており、人の移動が制限を受けている。外務省によると、日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっているのは181ヵ国に上る。モノの移動は閉ざされたわけではないが、サプライチェーンの寸断が意識されている。3月31日、国際連合食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)は、各国のパンデミック対策制定による食料供給への潜在的影響や食料安全保障への意図しない結果を最小限に抑える必要があると述べた。しかし、この異常事態の中、各国とも戦略物資の確保に動いており、それを止めるのは簡単ではないだろう。

2005年2月のAmerican Economic Reviewに掲載された「An Empirical Assessment of the Comparative Advantage Gains from Trade: Evidence from Japan」では、幕末の日本が開国したことによる経済的影響が取り上げられている。1853年、代将マシュー・ペリーが率いるアメリカ海軍東インド艦隊の艦船4隻が浦賀に来航し、日本の開国と通商関係を結ぶことを求め、ロシア使節の提督プチャーチンは、日本の開港と北方領土の画定を求めて長崎に来航した。こういった外圧の結果、江戸幕府の大老である井伊直弼は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ロシアと修好条約を結び長崎・横浜・箱館の三港を開港することになった。

当報告書では貿易財の比較優位性に焦点を当て、当時の開国によって日本のGDPは8~9%押し上げられたと分析している。足元の状況に当時の結果を当てはめることはやや乱暴だが、今起こっているのが「開国」ではなく「鎖国」なのであれば、当報告書を鎖国で経済規模が8~9%以上縮小する可能性を示唆していると読むこともできるだろう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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