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2020.04.03 外交・安全保障

デリバティブとドイツ銀行

中村 孝也

3月中旬以降の金融混乱を通じて、金融システム不安の可能性も意識せざるを得なくなった。その文脈で注目を集めているのが「ドイツ銀行」である。もともと業況が芳しくないことに加え、デリバティブ残高の大きさが注目されやすかったが、3月11日にロイター等が、4月末に償還可能になる総額12.5億ドルの(偶発転換社債の1種である)AT1債の返済オプションを行使しない方針と報じたことで注目が集まった(ドイツ銀、償還可能な債券の返済オプション行使せず 市場混乱が影響)。

2019年末のドイツ銀行の総資産は1.3兆ユーロ(156兆円)、株主資本は560億ユーロ(6.7兆円)である。リーマンショック当時より株主資本の水準は高いものの、業況不振の影響から、過去数年は減少傾向にある。リーマンショック直前の2007年末のレバレッジは51倍であったが、2019年末は23倍まで低下した。

ドイツ銀行のデリバティブの想定元本総額は37兆ユーロ(4,400兆円)である。表面上の数字は巨額であるが、ピークの59兆ユーロ(2011年)からは縮小した。内訳は、金利関連が30兆ユーロ、通貨関連が6兆ユーロ、株式/指数関連が0.4兆ユーロ、クレジットデリバティブが0.7兆ユーロ(84兆円)などである。

デリバティブ全てが怪しいという主張は極端であろうが、その点では注目を集めやすいのがクレジットデリバティブかもしれない。クレジットデリバティブの想定元本は2007年には5.2兆ユーロであったが、こちらも1/7の規模に縮小した。

不測の際に株主資本を棄損するのは想定元本ではない。クレジットデリバティブの想定元本が0.7兆ユーロ(84兆円)であるのに対して、グロスベースでの時価は213億ユーロ(2.5兆円)、(信用リスクを引受けている分と引渡している分の差で見た)ネットベースの時価は10億ユーロ(0.1兆円)にとどまる。

クレジットデリバティブが警戒視されるのは、リーマンショック当時にカウンターパーティーリスクが顕在化したことの既視感も影響しているのだろう。もっとも当時の反省から、主要国では金利スワップとCDSを中心に清算集中義務が適用されるようになった。清算参加者のデフォルトによってデリバティブ契約の不履行が生じた場合、中央清算機関(CCP)の清算基金が用いられる。適格CCPに対するデリバティブ取引のエクスポージャーに係るウェイトは2%だが、銀行が他の銀行と非清算デリバティブ取引を行うと20%のリスクウェイトが適用されるという点で、CCP活用の動機付けも行われている。ドイツ銀行の場合には、0.7兆ユーロのクレジットデリバティブのうち、CCPが0.5兆ユーロ、バイラテラルが0.2兆ユーロである。

実際に金融危機が発生した場合には、どのようなリスクが発生するかはわからないという面はあるだろう。非公表の情報もあるかもしれないが、それでも開示情報を把握しておくことは重要であろう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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