今年は米国大統領選挙の年だが、トランプ大統領の再選の有無にかかわらず「米中冷戦」は継続しよう。米中冷戦において、中国側の切り札と言われるのが「米国債売却」である。世界第2位の米国債保有国の中国(19年10月末時点で1.1兆ドル)が本格的に米国債を売却すれば米国債価格の暴落は避けられないため、金融市場にとって一大リスク要因である。
ただ、この「中国による米国債売却」は「切れないカード」と評価すべきだろう。1977年に施行された国際緊急経済権限法では、大統領が非常事態宣言を行えば、当該対象の米国との貿易が禁止、米企業が当該地域で活動できなくなる他、金融取引なども禁止されることが定められている。トランプ大統領はメキシコ産品への関税賦課や米企業の中国撤退などの可能性に言及してきたが、これらは同法を念頭に置いたものである。同法の前提は「異例かつ重大な脅威」であるが、非常事態宣言一つで柔軟な運用も可能である。
中国側は米国債を売却しようとするかもしれないが、無効化され、ペナルティを課されるかもしれない中国との取引というリスクは簡単にはとれないだろう。中国による米国債売却を封じ込めるためには、実現にはリスクをともなう「保有の無効化」まで踏み込まずとも、「取引無効化の可能性」で十分である。