◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.8−「反日」が激化する 韓国の「いま」と「今後」 4つのシナリオ』(9月26日発売)の特集「自衛隊・元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。
自衛隊機へのレーダー照射問題、元徴用工問題、韓国に対する輸出管理など、日韓関係を冷やす出来事が立て続けに起こり、国交正常化以来、両国の関係は最悪の状態だ。一方、急速に台頭してきた中国、核開発を進める北朝鮮と東アジア情勢は不安定さを増している。日本は国益を考えると、韓国とどう向き合うべきなのか。かつて自衛隊制服組のトップを務めた岩崎茂氏に聞いた。
脆弱な経済構造にある韓国には、感情的でない対応を
わが国との関係が冷え切っている韓国について、日本がどのように付き合うべきかを考える必要がある。韓国の名目GDPは、世界12位(1.61兆ドル)で決して小さくない経済規模である。約4.97兆ドルの日本の3分の1弱の水準だが、韓国はサムスン電子を中心とするサムスングループや現代自動車を中心とする現代-起亜自動車グループといった大財閥が支える点で、日本とは経済構造が異なる。
日本は自動車産業だけでも、トヨタ自動車<7203>、日産自動車<7201>、ホンダ<7267>、マツダ<7261>、スズキ<7269>、三菱自動車<7211>などに分散されている。2019年3月期決算で、日本で初めて売上高が30兆円を超えたトヨタ自動車でも、その売上はGDP比で1%以下だ。
しかし、サムスン電子の売上はGDP比約15%、現代自動車は同約6%と、極端に財閥系の大企業に偏っている。もし、これらの企業に変調の兆しがあれば、韓国経済に甚大な影響を与える。そのサムスン電子は、2019年第2四半期(4月-6月期)の決算で、営業利益が前年同期比56%減となった。
韓国の貿易相手国を見ると、輸出・輸入ともに中国が1位で、輸出の25%、輸入の21%が中国になっている。中国への貿易依存度が極めて高く、その点で、韓国経済は中国との関係が冷え込むと、大きな影響を受ける脆弱な経済構造になっている。
遡れば、2017年3月に、在韓米軍が対北朝鮮のミサイル防衛を念頭に置いて高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を配備すると、中国政府が猛反発した。その報復措置として中国は国内の旅行会社に韓国旅行商品の販売を禁止した。このほかにも、THAAD配備の敷地を提供したロッテグループのディスカウントストア「ロッテマート」の店舗に対し、消防法違反を理由に99店舗のうち74店舗に営業停止を命じた。
結果的に2018年に同社は中国からの全面撤退を余儀なくされている。韓国観光公社によると、2016年に806万人もいた中国人の入国者は、2017年には416万人と半減した。2018年も478万人にとどまっている。
また、GDPに占める個人消費の割合を見ると、米国は約70%、日本は約60%、韓国は約50%となっている。1人当たりGDPは比較的高いのに、先進主要国に比べて韓国は個人消費の割合が低い。若年失業率が高止まりするなど改善されない雇用環境、合計特殊出生率が2018年に「0.98」と初めて「1」を割るなど、急速な少子高齢化で民間消費の低迷する状況は予断を許さない。
1997年のアジア通貨危機で、韓国は一度、IMF(国際通貨基金)から救済措置を受けた。もし再び同じような状態になった場合、北朝鮮や中国との関係(西側諸国から距離を置くような態度)を考えると、IMFが救済に動いてくれるのか不明であるが、かなり深刻な事態になる可能性を秘めている。
韓国で混乱が起これば、日本の安全保障に大きな悪影響を及ぼす。我が国は、我が国の国益や主権にかかわることには毅然たる態度で対応すべきと考えるが、韓国が不安定にならないような政策や行動をとるべきである。
現在の日韓関係では、韓国に対して若干でも生ぬるい態度をとれば多くの国民から「ふざけるな」と言われることは十分承知しているが、感情的な対応は、かえって日本の国益を損なう可能性がある。
安全保障と経済をどう考えるべきか
これまで東アジアの情勢をざっと俯瞰してきたが、最後に安全保障と経済について少し話しておきたい。前述のような安全保障と経済を絡める中国を増長させないためには、アメリカを含めた十数カ国で連携して、経済的に相互扶助の枠組みをつくることも一考かもしれない。
たとえば、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような経済連携をする国同士で、中国による制裁によって、自国の生産品を輸出できなくなった場合、他の国々で協力し、その一部でも分担して輸入するスキームがあれば、中国による経済制裁の影響をかなり小さくできるはずだ。制裁を加えた中国がその制裁効果を実感できなくなれば、そのような手口を使えなくなるだろう。
いずれにしろ、どの国でもそうだが、国のリーダーにとって自分の主義主張よりも大切なことは、国民の生命財産、そして国民の安心安全を守ることである。その点からすれば、安全保障とともに経済を維持し、またより一層活性化・進展させて国民に安全で豊かな生活を提供しなければいけない。
このためには、今日明日のことだけでなく、中長期的な観点に立って好きな国ばかりと付き合うのではなく、自分たちと違う考え方や行動をする国とも共存共栄できるようにうまく付き合っていく必要がある。