◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の巻頭特集「LONGHASH Japan代表取締役 クリス・ダイ氏インタビュー」の一部である。全8回に分けて配信する。
今年2月に設立されたLONGHASH Japanは、分散型ビジネスモデルを可能にするブロックチェーン活用事業の支援を主軸として設立された注目の企業である。今回はLONGHASH Japan代表取締役社長、クリス・ダイ氏に、ブロックチェーンに代表される分散型ビジネスの将来性やその普及に至るまでの課題なども含めて、お話を伺った。
―トークンエコノミーのような分散型の経済秩序が一般化することによって、社会はどのようなかたちに変化しうるのでしょうか。
たとえば、Googleに広告を出そうとしたとき、広告料をGoogleの株で支払うことはできません。当然、法定通貨で決済する必要があるのですが、リアルビジネスにトークンエコノミーを組みこめば、企業にとって資金調達手段であるトークンも、消費者にとっての決済手段にもなるのです。
もっとも、株式とトークンは機能として別物ですが、トークンエコノミーにおいては、セキュリティ(資産性)とユーティリティ(実用性)を同じトークンで併用できます。つまり、投資家とユーザーの壁が取り払われ、両者の切り分けが必要ではなくなる世界となります。
―もともと、決済手段や送金手段として開発されたはずのビットコインが、フタを開けてみればほとんど投資目的でしか購入されず、しかもボラティリティ(価格変動の度合い)が高いために、決済や送金などの実用目的で使いにくいというジレンマが生じています。トークンエコノミーでも同様の問題が起こる可能性はないのでしょうか。
それはまさに、トークンエコノミーの課題、ひいてはブロックチェーンコミュニティが積み残している問題のひとつです。もし、ユーティリティ目的での利用を促進するのであれば、仮想通貨でもボラティリティの低いステーブルコイン(安定通貨)をもっと発行しなければなりません。
ただ、あえてステーブルコインを作らなくても、仮想通貨の利用者が増えれば増えるほど、ボラティリティは下がっていくので、要は普及に向けた活動が先決であるとも捉えています。よって、LONGHASHでも、一般の人々に対してトークンエコノミーの魅力を伝えたり、誤解を解いたりする活動を、粘り強く進めていく構えです。
また、仮想通貨のボラティリティが高いのは、あくまでも米ドルや日本円に換算したときの話です。このような国際決済通貨と仮想通貨とでは時価総額の規模が比較になりません。比較にならないものを比較して、仮想通貨のほうがボラティリティが高いと指摘するのは、あまり意義があることと思えませんし、法定通貨の中にもボラティリティが高いものもあります。たとえばベネズエラ・ボリバルやトルコリラなどです。
将来、仮想通貨の時価総額が法定通貨のそれに近くなれば、少数の機関投資家による価格操作が難しくなるため、今よりももっと安定性が保たれるものと思います。
―分散型社会を実現するため、現時点で技術的に足りない要素はありますか。
ブロックチェーンのプロトコル技術は、実用化に向けての課題がまだ多いです。
スケーラビリティと呼ばれる問題があります。要するに、現状のビットコインやイーサリアムですと、やりとりの効率が悪いのです。トランザクションの処理件数が、1秒間で5~15件程度とされていますが、クレジットカードのVISAのトランザクションは、最高で1秒間で約5~10万件の処理速度があるといわれています。桁違いじゃないですか。これぐらいのスピードがなければ、現実問題として決済の実用には耐えられないのです。
(つづく~「LONGHASH Japan代表 クリス・ダイ氏インタビューvol.5 分散型システムの応用性【フィスコ 株・企業報】」~)