実質的な経済成長が減速期に入っていると思われる今、中国は国家による投資主導の成長モデルから、個人消費主導型の成長モデルへの転換が求められている。しかし、社会保障制度への不安や流動性への制約など、中国が構造的に抱える諸問題が足かせとなって、個人消費の拡大はなかなか進まない現状がある。このままの状態が進めば、他国を巻き込んだ金融危機の発生と、外貨準備減少ループは際限なく続くと思われる。
こうした状況を踏まえて、中国政府が随時訪れる危機にどのように対処するかによってシナリオが大きく分岐することを想定し、「ベースシナリオ」「ソ連崩壊型シナリオ」「新中国誕生シナリオ」「内戦シナリオ」という4つのシナリオを想定し、それぞれが世界経済や日本経済に与えるインパクトについて考察していきたい。
本稿ではシナリオ2「ソ連崩壊型シナリオ」をご紹介する(※)。
※一つ目の「ベースシナリオ」は、別途「中国経済崩壊のシナリオ1:ベースシナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」参照。
経済危機を契機に資本主義経済へ
中国経済の崩壊がこのまま進み、経済危機が訪れるようになると、経済的な困窮が続いて民衆の不満が高まってくることになるだろう。そうなってくると、政権内部でも政治闘争の激化が予想され、民主主義・資本主義への移行を掲げた政権が誕生する可能性は高まる。それはまさにソビエト連邦が崩壊し、新生ロシアが誕生した際のシナリオと同様である。元安進行で、中国国内では急激なインフレが進行して所得格差が拡大しよう。その後は再度資本の流入が起こり、経済が再浮揚していく流れが予想される。
民主的で領土的野心をもたない中国が出現するということは、日本の戦略的地位が大幅に低下することを意味している。アジア地域の巨大な経済圏での利益を、アメリカは台頭する覇権国である中国と争わなくていいからだ。アメリカは第二列島線まで後退し、中国と共同でシーレーンを防衛し、共に経済的利益を享受することが想定される。地政学的リスク低下と私有財産権の完全な確立によって、巨額の投資が中国に流れ込み、イノベーションが促進され、経済が大きく成長する。結果的に、経済的にも日本が担っていた役割が中国にシフトし、相対的に日本の重要度が低下するだろう。
マーケットにおいて短期的には、一時的な中国経済の混乱により避難通貨としての円が買われよう。それに伴い、株価は暴落すると想定される。その後は輸出産業の長期的な衰退が想定される。輸出競争力を失った日本では反転して円安への動きが強まり、キャピタルフライト、高インフレが起こってくることになろう。
ただ、鉄鋼業界など中国の過剰生産に苦しんでいたセクターには光明があるかもしれない。また、平和配当に伴う株価の上昇も観測される可能性がある。一方、世界経済にとっては恩恵が大きいシナリオだと言えそうだ。過剰債務国の消費が冷え込むなど、一時的には経済が落ち込むものの、各国で対中取引が急回復を見せる可能性が高く、それにともなって中国の輸出競争力も回復。グローバル株価も上昇に転じる公算が大きい。特に米中関係の改善が進むことで米国市場の上昇が相対的に高まることになろう。
(つづく~「中国経済崩壊のシナリオ3:新中国誕生シナリオ【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ 取締役 中村孝也
フィスコIR取締役COO 中川博貴
シークエッジグループ 代表 白井一成
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の中国についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「中国経済崩壊のシナリオ」に掲載されているものを一部抜粋した。