◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ 』(4月28日発売)の巻頭特集「マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO 松本 大氏インタビュー」の一部である。全4回に分けて配信する。
昨年秋に仮想通貨ビジネスへの参入を表明したマネックスグループ。今年1月には信頼性の高い調査・分析結果を顧客に提供するためにシンクタンク「マネックス仮想通貨研究所」をグループ内に設立、4月にはコインチェックのグループ入りを発表した。これまで慎重に参入機会をうかがっていた松本大CEOに、参入の背景や戦略について語ってもらった。市場草創期にありがちな混乱や事件が発生するなかで、個人投資家に安心して仮想通貨市場に参加してもらうためのセキュリティ向上策など、市場の健全な発展に向けての率直な提言をいただいた。
仮想通貨市場の信頼性向上に向けて—松本CEOからの提言
―マネックスグループの参入はこの業界にとってどんな意味があるのでしょうか?
仮想通貨に関連した事故や事件が起こるなか、安全性の高い投資環境を整えるうえでも当社は貢献できるだろうと考えています。
創業時から大手オンライン証券の一角として、金融庁や同業他社と一緒にルールづくりや改正を進めた経験があるからです。私たちは金融が専門ですから、金融業界が培ってきたノウハウなど付加価値の面で期待は大きいと思います。
たとえば、今年1月に発覚したNEM(仮想通貨の一種)の大量流出事件でも、防衛手段としてコールドウォレット(仮想通貨をネットとは切り離して管理する方式)にしようとか、マルチシグ(複数の暗号鍵で盗難を防止する方式)にしようとかの意見が聞かれました。
しかし、そういう技術的な防止策とは別に、そもそも1取引で100億円も送金できるという点が疑問ですね。その必要があるのは中央銀行と犯罪組織だけでしょう。最初から送金の上限を1取引で1億円に下げておけば、悪質な送金はかなり防げるだろうと思います。経済犯罪も一種のビジネスだから、1回に動かせる金額が100分の1になれば、発覚するなどのリスクだけが増大するわけで、そうするとやらなくなるはずです。
つまり、技術分野の話だけではなく、もう少し文系的な視点、あるいは金融の世界にある知恵も活用すべきだと思います。ATMも昔は1日に1000万円まで引き出せたわけですが、そこまで必要ないことは経験的に知っているわけです。金融の世界も、現在の仮想通貨と同じような危うい時代を通過してきましたから。新しい仕組みが生まれると、育っていくなかでクリアすべき課題は山ほど出てきます。ただ現在の議論を見ると、もっと金融界の知恵が活かされたらいいと思うので、私たちが貢献できることも多いでしょう。
これから仮想通貨トレードを始める人たちへ—松本CEOからのメッセージ
―初心者がトレードを始める前に留意しておくべきことは何でしょうか?
仮想通貨を直接持ちたいのか、仮想通貨の値動きを取りたいのかによって、取り組み方は根本的に違ってきますね。仮想通貨の値動きを取りたい、つまり投資が目的であれば、盗難の不安はほとんどなくすことができます。
たとえば、マネックスグループの100%子会社にトレードステーションというアメリカの証券会社があって、この会社ではシカゴにあるCMEとCBOEという2つの先物取引所が昨年12月に提供開始したビットコインの先物を扱っています。これらの取引所の先物を売買すれば、ビットコインの値動きのトレーディングができますし、日本人でもトレードステーションに口座を開いて取引することが可能です。
一方、自分のハードディスクに仮想通貨を所有することが目的なら話は別で、個人のPCをインターネット上の外部攻撃から守るのは容易ではありません。ハッキングは映画の話だと思えるかもしれませんが、実際には頻繁に起きています。
たとえばマネックス証券で売買しているなら、お客さまが使っているパソコンが乗っ取られても、そこからお金を奪うことはできません。予め登録されているお客さまの銀行口座にしか送金できないからです。
―初心者がこれから投資をするうえでウオッチしておくべきポイントは?
一番大切なポイントは、仮想通貨の流動性でしょう。もし流動性が落ちてきたら、逃げたほうがいい。流動性があるうちの「上がる下がる」は問題ありません。これはスペキュレーション(投機)ですから、当たるときもあれば外れるときもあるという考え方です。しかし流動性が落ちてしまうと、もう換金できなくなる。だから流動性だけは見ておいたほうがいいと思います。
(つづく~「マネックスグループ松本大社長インタビューvol.4 仮想通貨市場と日経平均の今後【フィスコ 株・企業報】」~)