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2022.11.11 経済金融

「暴落」から薄日が差し始めた香港市場、国際金融センターの地位を守れるか

実業之日本フォーラム編集部

 世界有数の金融センターである香港市場は、米国と中国との金利差拡大や、米中対立の激化などを背景に、下落基調が続いている。香港市場の代表的な株価指数であるハンセン指数は、今年1月21日の2万4965.55ポイント(終値ベース、年初来高値)から、10月31日の1万4687.02ポイント(同、年初来安値)まで落ち込んだ。騰落率はマイナス41.2%と、2009年4月以来の低水準を記録した。

香港ハイテク銘柄は「クラッシュ状態」

 その中でも、香港市場に上場している中国のテクノロジー企業で構成されるハンセン科技(テック)指数の下落率が最も目立つ。インターネット企業を対象にした2020年11月の独占禁止法強化の影響が大きい。足下でも昨年11月の6000ポイントから今年10月末の2720ポイントまで50%近く下げた。2021年2月の最高値10945ポイントと今年10月末の指数で比較すると約75%超の下落となり、統計開始以来の安値を記録した。「market is crashed」といっても過言ではない状況だ(図)。10月末時点で、ハンセン指数における銘柄全体のPER(株価収益率)は約5.6倍と、過去13年で最低水準にまで転落した。1997年のアジア通貨危機時に匹敵する低水準である。

(出所)QUICK(11月10日時点)

香港市場低迷の「二つの要因」

 10月27日に国際決済銀行(BIS)が発表した3年に1度の外国為替・デリバティブ市場の取引高調査結果において、世界の外国為替取引額における香港のシェアは3年前の前回調査に比べ0.5ポイント減少(7.6%から7.1%に低下)の4位だ。依然として世界の4大FX市場の一角ではあるが、3位のシンガポールとの差は著しく広がった(シンガポールは前回調査比1.7ポイント増の9.4%)。

 香港市場低迷の主な背景として、次の2点が挙げられる。一つは、中国国内の厳格な新型コロナウイルス防疫政策によって景気減速感が強まり、GDP成長率も市場予想を下回ったことを受け、中国からホットマネーの流出が加速したことだ。国際金融協会(IIF)によると、10月の中国からのドル流出は、債券市場で12億ドル、株式市場 で76億ドルの流出(今年3月以降最多)となっている。

 二つ目は、米中金利差の拡大だ。FRB(米連邦準備制度理事会)は、米国内のインフレを抑え込むべく利上げのペースを加速している。このため、10月の米中金利差は1.5%超まで拡大して元安をもたらし、人民元相場は15年ぶりの安値となった。11月8日時点でオフショア人民元相場は1米ドル=7.27元、香港ドル対人民元の為替レートは1香港ドル=0.92となっている。対ドル換算で比較すると、年初来から人民元の下落率は12%に達する。日本円や韓国ウォンに比べれば元安は抑制されているものの、今後、下落圧力が高まる可能性は否定できない。

市場に回復の兆し、政策の後押しも好材料

 しかし、11月に入ってからの香港市場は回復の兆しを見せつつある。足元の悪材料が出尽くしている中、海外勢の買い戻し期待が支えになり、ハンセン指数の投資環境がある程度改善してきている。もっとも、月末の第3四半期の企業決算発表や、米国当局による中国企業の会計監査の審査結果には留意すべきだろう。

 香港当局の政策も市場の追い風だ。「HongKong is back!」――11月1日、香港金融管理局(HKMA)が主催する「国際金融リーダー投資サミット」で、李家超行政長官はこのように述べた。香港は、長引くコロナ禍にあっても経済活動が回復基調にあると世界の金融機関首脳にアピールした形だ。同氏は、香港進出企業への投資促進施策や、誘致企業に対する土地・税務面の支援措置などについても改めて言及した。

 また、香港政府および規制当局は、10月31日から11月4日まで開催された香港のイベント「FinTech Week 2022」で、香港におけるフィンテックの促進政策に関する声明を公表した。グリーンボンド(環境債)のトークン化のほか、非代替性トークン(NFT)やデジタル香港ドルの発行を目指すとし、国内外からデジタルマネーの呼び込みを図る。

 中国の株式市場は、外国市場との橋渡し役である香港証券取引所のほか、中国本土の上海証券取引所と深圳証券取引所の3市場で取引が行われている。そうしたなか、香港は2014年以降、中国・深圳と香港間の株式相互取引制度「深港通」や、上海と香港の株式相互取引制度「滬港通(上海・香港ストックコネクト)といった効率的で利便性の高い金融インフラ整備を築き上げることで、中国本土と香港の資本を結び付け、金融機能の強化を図ってきた。今後は、中国・香港両市場間の新規公開株応募システム「IPOストックコネクト」を導入する予定だ。さらに香港政府は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の企業が香港市場に上場するよう促し、金融市場の競争力強化を目指している。

 大きなショックを受けつつも、金融機能強化を進めることで市場の魅力の維持・向上を目指す香港。一方で、米中対立やゼロコロナ政策に伴う経済活動の停滞といった大きな問題は解決されていない。香港は世界有数の国際金融市場であるとともに米中衝突の最前線でもあり、利害と価値観とがせめぎあう場だ。真の意味で「HongKong is back!」となるために、香港当局が構造的問題にどう立ち向かうかが問われている。

写真:ロイター/アフロ

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