中国からキンドル撤退、国内メーカーに置き換わり
米アマゾン・ドット・コムは6月2日、電子書籍サービス「キンドル」中国市場向け事業から撤退し、中国のキンドルストアの運営を1年後の2023年6月30日に停止することを中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」で発表した。撤退理由は詳しく公表されていないが、「政府からの圧力や検閲問題に繋がる原因ではない」とのことだ。キンドルは2013年6月に中国に進出しており、2016年末には中国が世界最大の市場となった。しかし、その後は中国メーカーによる競争激化で販売が低迷していた。
ここ数年で、科大訊飛(アイフライテック)や、掌閲(iReader)、ONYX(文石)などの中国メーカーが次々と電子書籍市場に参入。また、ネット大手騰訊控股(テンセント)が提供する読書アプリ「微信(WeChat、ウィーチャット)読書」も人気だ。さらに、中国発の動画アプリ「Tiktok(ティックトック)」や動画投稿サイト「ユーチューブ」、音声化された書籍コンテンツを耳で聴いて楽しめる「オーディオブック」の利用が広まっていることも影響した模様だ。
また、中国の市場調査会社が発表した「China Digital Reading Report 2020」によると、2020年の1人1端末あたりの動画視聴時間は79.3分と短縮傾向にあり、ショートビデオ利用者の1日の視聴時間は110分を超えている。ショートビデオ利用の急増もキンドル低迷に拍車をかけた。
コロナ禍で電子書籍が人気に
中国におけるデジタル読書市場は、新型コロナウイルス感染拡大による外出規制が続いた際の巣篭もり需要によって急拡大を見せている。
2021年度中国デジタル読書報告書によると、電子書籍市場規模は前年比18.23%増の415億7000万元(約8435億円)に上り、ユーザー数は前年比2.43%増の5億600万人で、一人当たりの電子書籍保有量は11.58冊。そのうち有料化ユーザー数の割合は60.07%だった。年齢別にみると、19~25歳の人が45%を占め、18歳以下は約27%となっている。中国国内の約5億600万人のデジタル読書ユーザーのうち72%が90年代半ば以降に生まれたZ世代ということだ。
昨年末時点で、中国で電子書籍としてアップロードされた文学作品は3000万作以上あり、「ラブストーリー」や「ミステリー・ファンタジー系」、「SF系」、「時代劇」のほか、武術を題材としたものが人気だ。人気の電子書籍作品がドラマ化・映画化され、その後に紙で書籍化されることも少なくない。
オーディオブックも普及
電子書籍までは行かずともオーディオブックの普及も著しい。2021年のアクティブユーザーは前年の5億7千万人から8億人に増え、ニュースだけでなく文学作品、インタラクティブ絵本(絵をタッチすると名前や鳴き声を聞くことができる)、フィルムドラマなどの利用も拡大している。
中国データ分析会社「iiMedia Research」が発表したオーディオブックのアクティブユーザ数ランキングによると、首位の「喜馬拉雅(ヒマラヤ)」に次いで2位が「蜻蜓FM」、3位はテンセント傘下のネット小説プラットフォームを運営する「閲文集団(チャイナ・リテラチャー)」となっている。また、通信大手中国移動(チャイナモバイル)傘下でエンタメ系サービスを提供する咪咕(ミグ)や、香港市場に上場する教育用スマートデバイスの「読書郎」などの利用も盛んだ。
テンセント、ネット小説を新収益モデル化
多くの企業がしのぎを削る中国のデジタル読書市場。なかでもとくに注目したいのが、テンセント傘下のネット小説プラットフォーム運営「閲文集団(チャイナ・リテラチャー)(以下、閲文)」だ。
中国のネット小説投稿サイトでシェアナンバーワンを誇る閲文は、投稿された小説のIP(知的財産)を使って、ドラマ・映画、漫画、ゲームを作成までを行っている。テンセントグループの資源とのシナジー(相乗効果)を得ることで、デジタルコンテンツ産業における映像作品の共同開発を進め、「トゥームレイダー」や「鬼吹灯(きすいとう)」、「斗ブロークン空」、「贅婿(ぜいせい)」など多数の人気作品を輩出している。
同社の21年通期決算によると、昨年末時点で作家は前年より70万人、作品は120万部増加している。また、新人作家は若年化が進んでおり、その8割が「95年以降生まれ」だという。新刊売上ランキング100位中、90年代以降の作家は57%を占めている。これは、上述の通り、中国のデジタル読書ユーザーの約7割が90年代半ば以降に生まれたZ世代であることが影響している。
通年業績は黒字転換、海外進出も好調
閲文は中国の電子書籍市場で首位の43%を占め、そこに掌閲(iReader)(15%)、中文在線(6%)と続く。
閲文の2021年の通年売上高は86.7億元(約1756億円)で、純利益は18.5億元(約375億円)。そのうちオンライン事業収入は前年比9.6%増の53.1億元だった。また、小説プラットフォームの月間アクティブユーザー数(MAU)は前年比8.6%増の2.5億人、純増人数は1970万人。そのうち月払いユーザーは870万人、有料会員一人当たりからの平均月間収入は前年比14.4%増の39.7元(約804円)。無料閲覧できるコンテンツの1日あたりのアクティブユーザー(DAU)は、前年比50%増の約1,500万人に達した。
海外進出も進めており、閲文が運営する海外版の小説投稿プラットフォーム「WebNovel」には昨年末までに中国語翻訳作品が2100点、現地でのオリジナル作品総数が37万本も掲載された。
昨年には短い時間で視聴完了できる「マイクロドラマ」という形態の無料コンテンツを発表しており、将来的には無料コンテンツ分野で音声付き機能や、アニメーション形式などのコンテンツを豊富に取り揃えながらも、「有料+無料」サービスを強化する模様だ。
「中国オンライン文学」ブームは海外にも?
昨年末時点で中国のネット文学ユーザー規模は5億200万人に達し、前年から4145万人増加した。これは過去最高水準で、ネット利用者全体の48.6%を占めている。
中国のデジタル読書市場の収益モデルは主に2つのタイプに分けられ、「閲文」や「掌閲」は、最初の数ページだけを無料で読める「有料課金モデル」で、無料の小説アプリ「連尚」やニュースアプリ「トマト小説」・「米読」などは広告収入で運営している。2018年頃は広告収入モデルが盛んだったが、現在は広告が表示されることやコンテンツの充実を求めるユーザーの増加により減少傾向にある。
その一方で、各企業は上述のような「マイクロドラマ」という無料で視聴可能なショートビデオ提供を今後の軸に置き始め、シェアの奪い合いが始まっている。
データ分析会社SensorTowerが発表した「2021年世界ベストセラー書籍アプリ・リスト」によると、海外市場への進出している中国発アプリ「Dreame」や「GoodNovel」、「Webnovel」の3つが最も売れているのは米国市場だった。世界中で中国のオンライン文学が読まれる日も近いかもしれない。