「日本企業の問題の背景(1):戦前の75年間」では、「プロジェクトT報告書」が指摘した「明治維新の元勲が国を引っ張った1910年頃までの前半」と「軍人・官僚など学歴エリートが中心となった1945年までの後半」について紹介した。今回は「戦後の75年間」について見てみよう。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を記したボーゲル教授は、日本の成功の理由として優れた組織構造に注目した。当時の日本の会社や官庁には、実力主義、大義の追求、情報収集と徹底討議、組織一丸となった実行力といった長所があった。具体的には、(1)個人や組織の狭い私的利益を超えた、組織が貢献すべき公共目的を示す、(2)そうした公共目的を実現するため、常に情報収集や知識蓄積を怠らない、(3)集めた情報に基づき、コンセンサスを重視した意思決定を行う、(4)一度行った意思決定の実現に構成員が一丸となって協力する、といった点に注目している。
日本企業から政治、官庁に至るまで、こうした特徴をもった組織構造が浸透し、お互いに切磋琢磨することを通じて、激しい競争を行いつつ、日本が極めて安定した社会を作り上げることに成功したことを示した。終身雇用慣行や株式の持ち合い、企業系列、産業政策など、いわゆる「日本型経済システム」として一括される諸制度は、あくまでこうした組織構造が具体的に現れた結果としている。古いリーダーが一掃され、若い世代を中心に、戦前の反省にたって、日本の組織の構造を作り直すことで、上記のような「柔構造」の組織を作ることに成功した。
一方、バブル崩壊後、経済の低迷が長期化する中で、日本の組織に備わっていた強みは徐々に失われていった。むしろ、戦前と同じように、組織ごとの縦割りや閉鎖性が強まり、組織の論理に忠実な学歴エリートがリーダーとなり、独創性や異分子を排除するようになっている可能性が指摘された。
「プロジェクトT報告書」はあくまでも「企業組織の変革に関する研究会」で提出された「勉強会報告書」に過ぎないが、「企業組織の変革に関する研究会」は2021年夏に報告書をとりまとめる予定である。上記のような歴史認識のもと、これからどのような議論が展開され、最終的な報告書がどのような処方箋を示すのか、興味が尽きないところであろう。
(株式会社フィスコ 中村孝也)