実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2021.01.27 外交・安全保障

日本企業の問題の背景(1):戦前の75年間

中村 孝也

2020年12月22日に「企業組織の変革に関する研究会」が開催された。「日本の組織を開放し、個人が組織に縛られすぎず、自由に個性を発揮しながら、付加価値の高い仕事ができるよう、日本の組織の変革に関する課題を検討する」ことが研究会の趣旨として掲げられており、2021年夏には報告が取りまとめられる予定である。この研究会の第1回会議では「プロジェクトT報告書」が配布された。当研究会に先駆けて、2019年12月から2020年9月にかけての議論を経てとりまとめられたものである。この報告書では「日本企業の問題の背景には、日本全体に広がる、組織の硬直化があるのではないか」との仮説が提示されている。

近代化前半の75年を、(1)明治維新の元勲が国を引っ張った1910年頃までの前半と、(2)軍人・官僚など学歴エリートが中心となった1945年までの後半に分けている。日本社会が活性化した前半の時期には、実力主義で若者を抜擢して活躍させた一方、日本社会が転落した時期には、個人より組織の力が強くなりすぎ、組織の論理が国益に優先する傾向にあったことを指摘している。明治維新では、身分を問わず、実力主義で優秀な若手が抜擢された。明治元年の1868年においては、西郷40歳、大久保38歳、木戸35歳、板垣31歳、伊藤27歳であった。

戦前の教育システムでは、国家全体の利害を考えるリーダーを再生産できなかった。欧米諸国を参考にした組織の秩序が確立すると、組織の論理が個人を強く縛るようになり、異分子や独創性を排除するとともに、組織内で事なかれ主義・思考停止が蔓延した。その結果、組織の論理に極めて忠実な学歴エリートがリーダーとなるようになり、組織の利害を超えた、国全体の利益を考える全体調整が機能しなくなった結果、国家の舵取りを誤るに至った。
太平洋戦争までの意思決定の経過を見ると、日本の場合、他国と異なり、リーダーが強引に政策を進めることは少なく、陸軍・海軍や中央省庁など組織の利益を代表する優秀な学歴エリートが、集団で討議し意思決定を行うことが一般的であった。個人で見ると、優秀な学歴・職歴を持ち、組織内で高く能力を評価された者であっても、意思決定の場面で組織の利益を主張し、国家全体を見渡した大局的な意思決定が出来なかったことが、国の方針を誤った最大の要因とされている。
(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

著者の記事