10月21日、ジャカルタを訪問中の菅義偉内閣総理大臣は、インドネシアの独立に貢献した兵士が埋葬されている南ジャカルタのカリバタ英雄墓地を訪れ、戦後インドネシアに残って、インドネシア人とともに独立戦争を戦った日本人戦没者の墓に花を手向けた。これまでにも、中谷元防衛庁長官(2001年)、小泉純一郎首相(2002年)、秋篠宮文仁親王・紀子妃夫妻(2008年)、安倍晋三首相(2007年、2015年)などの日本の政治家・皇族が、カリバタ英雄墓地を訪れ、参拝・献花を行った。インドネシアの独立に際し、日本人がいかに関わってきたのか、その歴史的背景などをみてみよう。
1万3千以上の島々からなるインドネシアは、東西約5,100km、南北約1,900kmの広大な領土を有する世界最大の群島国家である。約300もの民族で構成される多民族国家でもあり、約2億4,000万人と世界第4位の人口を抱える。人口の約9割がイスラム教徒という世界最大のイスラム教国家であるが、キリスト教、仏教、ヒンズー教など信教の自由が認められている。1602年から1942年の340年間にわたって、オランダが統治する植民地であった。
1942年から1945年までは日本により統治された。1945年8月15日に日本が敗戦し、2日後の8月17日にスカルノ大統領が独立宣言を発表した。しかし、イギリスとオランダは植民地の復活を狙って再びインドネシアに進攻し、インドネシアは4年半に及ぶオランダとの独立戦争に突入した。敗戦後日本に帰国しなかった約3,000人の元日本兵は、スカルノ大統領率いるPETA(郷土防衛義勇軍)に加わってインドネシア独立のために戦った。
インドネシアでは、高校の授業で日本の占領時代の歴史を学ぶ。強制労働や日本化の強要など負のイメージもある一方で、独立準備組織の設立や軍事訓練、教育の実施とともに独立戦争を一緒に戦ってくれた日本人の貢献に感謝する記述もあるという。独立戦争に参加した元日本兵は、カリバタ英雄墓地はじめ各地の英雄墓地に葬られた。現地に永住し、生き残った元日本兵もインドネシア国籍を与えられ、これらの墓地に埋葬されるそうだ。
1958年に訪日したスカルノ大統領は日本への感謝の意を表し、特に貢献度の高かった2人の元日本兵に感謝の言葉を贈っている。また、1987年にアラムシャ第3副首相が訪日した際には「PETAでの訓練及び人材育成と、多数の経験豊かな有志将校が勇猛果敢に独立戦争に参加してくれたことが我々を有利な方向に導いてくれた」と謝意を表明した。日本軍政がインドネシア社会に大きな政治的インパクトを与え、ナショナリズムを刺激し、植民地から解放されたことで、民主化を果たすことができたとする声もある。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ