9月29日、ケリー・クラフト米国連大使は、台湾政府などが主催したオンライン会合に出席し、「世界は台湾が国連に完全加盟することを必要としている」と述べ、台湾の国連加盟の支持を表明した。クラフト氏は、「公衆衛生と経済発展に影響を及ぼす問題について、台湾の参加が必要だ」と指摘した。これに対し、中国国連代表部は、「中国の主権と領土の保全を損なう発言で、強い憤りと反対を表明する」とクラフト発言を非難するとともに、米当局者と台湾関係者の接触をやめるよう要求した。トランプ政権は、8月10日に台湾との国交断絶後の米当局者で最高位のアザー厚生長官を、9月17日に故李登輝総統の告別式参加のためクラック国務次官を台湾に送り込んでおり、台湾支援の姿勢を強めている。
このように台湾を巡る米中両国の緊張が高まるなか、米海兵隊のウォーカー・D・ミルズ大尉は、米陸軍大学発行の軍事誌「ミリタリー・レビュー9・10月号」に「米軍は台湾に帰還させるべきだ」とする論文を発表した。ミルズ大尉は、CSBA(戦略予算評価センター:Center for Strategic and Budgetary Assessment)やランド研究所による中国のミサイル開発・軍事技術の向上などの分析や、米印太平洋軍司令官フィリップ・デビットソン提督や前海兵隊司令官ロバート・ネラー元帥による中国人民解放軍の戦力評価などを引用し、冷静かつ正確に、東アジアのパワーバランスが中国優位になりつつあると見積もっている。「米国が、中国の侵攻から台湾の主権を守る意思があるならば、台湾に米地上軍の配備を検討すべきだ」という主張である。ここで、その内容を概観してみよう。
ミルズ大尉は、「中国は中距離核戦力条約の制約を受けずに、人民解放軍が何万発もの通常弾道ミサイルを蓄積し、現在では、日本、韓国、グアムの米軍基地や米艦艇さえも攻撃可能な状態となっている。ランド研究所の調査では、わずか274発のミサイルで嘉手納空軍基地の運用を30日間遅らせ、その他の戦力の運用も大幅に遅らせることができるような攻撃力を有するに至った。そのような状況にありながら米国が台湾を防衛したり、人民解放軍の侵略に対応したりする根拠は『台湾関係法』(1979年、ジミー・カーター大統領が自由主義陣営の一員である台湾が中華人民共和国に占領される事態を避けるため、武器売却などが可能となるように定めた米国内法)だけであり、『相互防衛条約』ではない。台湾の防衛に関して、米国指導者は意図的に曖昧さを維持している。朝鮮戦争の教訓がありながら、危険なほど曖昧である」と政府の台湾防衛に関する曖昧な態度を批判している。
兵力運用については、「1995年から1996年の台湾海峡危機に直面した人民解放軍の無力さが、中国のA2/AD(Anti-Access/Area Denial 近接阻止・領域拒否)の能力向上の原動力になっている。2020年6月、米海軍は空母3隻を太平洋に投入したが、次に台湾海峡危機が発生しても空母打撃群のような貴重な戦力を台湾海峡に投入する可能性は極めて低く、米本土からの急襲部隊の来援には数週間の時間がかかるだろう。兵力の運用は地理的に遠い米軍にとって、極めて不利である」と中国のA2/AD能力の高さや米軍の兵力運用の弱点を分析している。
このような戦力比較、運用の分析から、「前提として、台湾に米軍の地上軍が存在することで、抑止力のパラダイムが大きく変化する。北京に対する明確なメッセージの発信になる。さらに、米軍と台湾軍が共同訓練を行い、両軍の連携を高めることができる等の利点が考えられる。結論として、米軍は台湾の主権を守るため地上軍の駐留を検討する必要が生じるだろうと述べている。現状の戦力分析では、在台米軍がなければ、中国は台湾を武力で共和国に統合する可能性が高まってしまう。現在の傾向が予測通りに続き、米国がプレゼンスを高めなければ、米国の抑止力は低下し続け、逆説的に紛争のリスクを高めることになるだろう」と米軍駐留の検討の必要性を主張している。
一方、台湾の民主進歩党(与党)の立法者ロ・チチェン氏は「抑止力として機能するために米軍が必ずしも台湾に駐留する必要はない」と述べ、国民党(野党)のイ・デウェー議員も「米国がすぐに台湾に軍隊を派遣する可能性は低いと考える」と現地メディアは報じている。