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2020.10.06 外交・安全保障

二酸化炭素排出量の削減が経済に与える影響(1)

中村 孝也

世界的な気候変動と異常気象に対抗すべく、「脱炭素化社会の実現」に向けた取り組みが行われている。BPの「Energy Outlook 2020 edition」では、世界のエネルギー転換を形成する影響力と、そのカギとなる不確実性について考察し、Rapid、Net Zero、Business-as-usualの3つのシナリオにおける経済見通しを提示した。

1つ目のRapidシナリオは、炭素価格の大幅な引き上げと、よりターゲットを絞ったセクター別の対策を中心とした一連の政策措置が提示され、2050年までにエネルギー使用による炭素排出量が約70%削減されるというものである。IPCCによる、2100年までの世界の気温上昇を産業革命前のレベルから2℃以下に抑えるというシナリオと合致し、メインシナリオに近い位置づけであろう。

2つ目のNet Zeroシナリオは、Rapidシナリオでの政策手段がさらに強化され、炭素排出量の削減がさらに加速し、エネルギー使用による世界の二酸化炭素排出量が2050年までに95%以上減少するという想定である。こちらはIPCCによる1.5℃の気温上昇シナリオと合致する。3つ目のBusiness-as-usualシナリオは、政府の政策、技術、社会的嗜好が、これまでと同程度の速度で進化することを前提としている。炭素排出量は2020年代半ばまでにピークに達すると見られるが、2050年のエネルギー使用による二酸化炭素排出量は2018年のレベルを10%弱下回る程度にとどまる見込みである。

世界のGDPの年間成長率は年平均約2.6%とされた。2050年までに世界の人口は20億人以上増加して約96億人となり、生産性(一人当たりGDP)の向上、ひいては繁栄(一人当たり所得増)によって、展望期間中の世界GDPの拡大の約80%が牽引されることが見込まれている。そこに気候変動の影響が加わるわけだが、3つのシナリオすべてにおいて、2050年のGDP水準は約5%低下するという見通しとなった。気温上昇によるマイナスの影響は、炭素排出量の削減がほとんど進まないBusiness-as-usualシナリオで最も大きくなるが、一方、RapidやNet Zeroでは排出量削減のために実施される政策の先行費用が生じるため、今後30年間でGDPへの影響がほぼ変わらないとのことである。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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