9月17日、米国のキース・クラック国務次官が故李登輝総統の告別式に参加するため台湾を訪問した。このことに対し、中国が猛烈な抗議を行い、爆撃機や戦闘機など18機を台湾南西部の防空識別圏(ADIZ : Air Defense Identification Zone)に侵入させ、台湾海峡の中間線を越えて実戦的演習を強行し、軍事的圧力をかけた。さらに、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)に中国空軍のH-6爆撃機が米国のグアム・アンダーソン空軍基地のような軍事基地を爆撃する創作動画を公開した。もし実際に戦闘の火ぶたが切られるとすると、中国軍は米国の最新兵器を駆使したハイテク戦争に際し、米軍の「目」となり「耳」となっている人工衛星を破壊し、妨害を仕掛け、それらの機能をマヒさせることが考えられる。
ここで、具体的に人工衛星に対しどのような破壊や妨害が行われるかについて見てみよう。米国防情報局(DIA : Defense Intelligence Agency)は2019年1月、「Challenge to Security Space」という報告書の中の中国軍に関する分析において、衛星軌道上における対衛星兵器として「ハイ・パワー電磁波」、「電波妨害」、「レーザー攻撃」、「化学物質による衛星攻撃」、「物理的攻撃」、「ロボット技術による攻撃」など様々な攻撃方法を用いた兵器を開発している現状を指摘している。中国は2007年1月に「自国の老朽化した気象衛星に対しミサイル攻撃を行い、見事に命中させ、3,000個に及ぶスペースデブリ(宇宙ゴミ)を放出した」と発表した。また、2008年9月、中国は国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)と同じ軌道上に小型衛星を打ち上げ、ISSに45mまで接近する実験に成功している。さらに、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studies)は2018年5月、中国がミスチーフ礁とファイアリークロス礁に地上発射型対衛星ジャミング装置の設置したことを確認したと発表している。このように中国は着実に人工衛星への攻撃や妨害等の衛星攻撃兵器ASAT(Anti-Satellite weapon)技術を取得し、その実験までも行っている。
このような中国の衛星攻撃兵器開発状況に関し、コロラド州にある米空軍宇宙軍作戦副部長のショーン・ブラットン准将は、9月4日、FINANCIAL TIMESに対し、「米国の国防や経済にとって不可欠な軍事・民間衛星が中国の宇宙開発により危険に晒される可能性がある。特に軍事政策担当者が警戒するのは、米中間で紛争が起きた場合、中国版GPS「北斗」が米国の衛星測位システムを無力化する目的に使用されるシナリオだ」と強調している。日本の防衛白書令和元年版でも、「第1部、我が国を取り巻く安全保障環境」の「周辺国の軍事動向」において「中国は核・ミサイル戦力、海上・航空戦力に加え、宇宙・サイバー・電磁波領域の能力を強化し、その軍事動向は、安全保障上の強い懸念となっている」と中国の宇宙開発や衛星攻撃兵器の開発に警戒感を示している。
1967年10月に「宇宙条約」、通称「宇宙憲章」が発効し、2020年9月現在では110の国や地域が批准している。条約では、「宇宙空間の探査・利用の自由」、「領有の禁止」、「平和利用の原則」、「国家へ責任集中」が謳われている。大量破壊兵器の宇宙軌道への持ち込みは禁止されているものの、この憲章には宇宙空間での武器使用の制限、衛星の破壊、宇宙デブリ(宇宙ゴミ)発生の規制などの細部に亘る法的規定が存在していない。日本は本年5月、「航空自衛隊宇宙作戦隊」を発足し、まずは「宇宙状況監視」(SSA)の任務から出発する。米国や友好国とともに、宇宙空間での一定の秩序作りや、そのための積極的な役割の遂行が期待される。