3月のコロナショック直後に、FRBは矢継ぎ早に金融政策を打ち出した。ドル不足への対応としては、3月15日のFRBと主要5中銀との「米ドル・スワップ取極を通じた流動性供給を拡充するための協調行動」、3月19日のその他9中銀へのドル流動性スワップライン拡大、3月31日のFIMAレポファシリティ開設、が相次いで実施された。FIMAレポファシリティとは、FRBが海外の中央銀行にドルの流動性を供給する暫定的な措置である。米国債売却に代わるドルの調達手段であり、米国債を担保としてオーバーナイトでドルを調達することにより、参加行は一時的に米国債をドルに交換することができる(ロールオーバーも可能)。自国通貨を担保に差し入れる通貨スワップとは異なる。当面は6カ月間の時限措置とされていたが、7月29日には2021年3月末までの延長が決められた。
FIMAレポファシリティは、4月6日からオペレーションが実施されているが、これまでのところ使用実績はほとんどない。ただ、いくつかの海外中銀は、FIMAレポファシリティに言及している。例えば、インドネシア中央銀行が4月9日に公表した「Latest Economic Developments and BI Measures against COVID-19」では、「必要であればレポによる600億ドルの調達が可能」と説明された。また、7月9日には、「スリランカ中央銀行の副総裁は、スリランカは10億ドルのレポファシリティをオファーされていると述べた」と報じられた。7月24日に、スリランカ中央銀行は、FIMAについてニューヨーク連銀と合意した旨をプレスリリースで公表している。アメリカによるドル供給の可能性は、これらの国にとって一定の安全弁として機能したと見られる。
もっとも、FRB側からはFIMAレポファシリティについて、追加的な説明が極めて限られる。FIMAレポファシリティの対象は「ニューヨーク連銀に口座を持つ200以上の中央銀行や国際機関など」とされており、広範な国が恩恵を受けられる様にも見受けられるが、具体的な対象国は判然としない。また、通貨スワップ協定、ドル流動性スワップラインと同様、認可、拒否の裁量はFRBに握られている。通貨下落に悩まされているにもかかわらずFIMAレポファシリティに言及できない国は、担保となるべき米国債の保有が極めて限られる国なのか、あるいは米国が支援すべきでないと考えている国なのか、などと考えるべきなのかもしれない。
(株式会社フィスコ 中村孝也)