米中対立を受けて経済制裁が注目を集めているが、「経済制裁の有効性」にはいくつかの先行研究がある。それらによると、米国の経済制裁による経済的な影響は、少なくともこれまでのところ限定的であったと示されている。
Center for a New American Securityの「THE NEW TOOLS OF ECONOMIC WARFARE: Effects and Effectiveness of Contemporary U.S. Financial Sanctions」は米国の経済制裁を分析したものである。米国の経済制裁の成否については、当報告書では「成功8件、失敗15件、不明1件」と分類しており、期待したような効果は得られていないと結論付けている。また、経済制裁による経済的な影響についても、「制裁が経済面に影響を与えるという明確な証拠はない」と主張している。対GDP比で見た投資額については、制裁1年目、3年目は確かにマイナスの影響が確認されるが、同様にマイナスの影響が想定されるGDPについては、制裁1年目、3年目には逆にプラスの影響が出てしまっている。
一方、「The Impact of UN and US Economic Sanctions on GDP Growth」は、1976~2012年、68ヵ国のケースを対象として、国連と米国による経済制裁の影響を分析したものである。当報告書は、国連による経済制裁は有意に影響しており、実質1人当たりGDP成長率を2.5~3.5ppt押し下げ、その影響は10年間持続したと結論付けている。包括的な経済制裁であれば、GDP成長率を5%超押し下げるなど、より効力は大きいようだ。一方、米国の経済制裁については、7年間で0.5~0.9pptの押し下げにとどまるなど、効力は限定的と結論付けられている。
(株式会社フィスコ 中村孝也)