8月21日、イギリスのロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部講師のアレッシオ・パタラーノ博士の「嵐の集い―魚釣島をめぐる中国の略奪戦略」という論文が「RUSI(英王立防衛安全保障研究所)NEWS BREIF」に掲載された。パタラーノ博士は永年、日本の海軍史、防衛政策を研究し、政策大学院大学研究員、青山学院大学客員研究員として日本に長く滞在し、日本の安全保障政策に精通した海洋安全保障の専門家だ。パタラーノ博士は、「国際的な安全保障アナリストが、南シナ海の問題に注目している一方で、東シナ海では嵐が吹き荒れている」と、東シナ海における中国による現状変更の動きに警鐘を鳴らしている。日本の防衛白書は、「中国当局が現状変更の海洋活動レベルを高めながら、執拗に主権を強調し始めている」と記述しているが、パタラーノ博士は、「中国当局は従来のプレセンスの主張から法執行の段階に突入した」と注意喚起している。その詳細についてみてみよう。
パタラーノ博士は、「7月5日が中国の海事活動の新局面を迎えた転換点だ」と主張する。中国の公船による39時間23分間にわたる領海侵入は単なる「侵入」ではなく、「主権海域の本格的法執行パトロールであり、この中国の行動が日本統治に対する完全な挑戦に向かう」と強調した。この長期滞在中、公船は島から平均4~6マイルまで近づいた海域を航行し、一時的に海岸線から2マイル半まで迫ったと伝えられている。さらに、日本の漁船に接近し、法執行を行使しようとする行為まで行ったのでないかと懸念している。
パタラーノ博士は、「2018年、海上法執行機関である海警局が、中央軍事員会隷下の人民武装警察の指揮下に統合され、大幅な装備の増強が行われた。日本の海上保安庁の総トン数が約15万トンであるのに対し、海軍艦艇と同水準の76ミリ砲を搭載した1万2千トン級の巡視船をはじめ、海警局は総トン数約50万トンを誇っている。2018年、安倍首相が国交回復40周年に中国を訪問し、幅広い分野での協力に関する52の覚書に署名した。危機防止を強化することを目的とした海事メカニズムでも同意したが、それぞれの現場の沿岸警備組織にまで、その効力が及んでいない」と現状の問題点を指摘する。
結論として、「日本政府は、紛争の管理に関する北京との政治的かけひきに加え、尖閣周辺海域への侵入に対抗する戦術的反発、米国からの緊密な支援の追求、自衛隊の能力強化と安全保障上の連携強化への再投資、国際舞台での海上紛争管理の『法の支配』の重要性の主張等を行ってきた。しかし、この戦略だけでは、もう不十分である。中国は7月に単に存在を示すだけでなく支配権を行使し、日本の立場に直接挑戦しようとする動きを強めている。日本政府は、尖閣諸島の『レッドライン』がどこにあるのか、それを中国に伝えるための最善の方法は何なのか、すぐに見直す必要がある。ワシントンの政治が選挙期間に入る前に行動をおこさなければならない」と示唆に富んだ、日本政府への助言で締め括った。
写真:ロイター/アフロ