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2020.09.07 外交・安全保障

防衛法制のネガリスト方式への変更

実業之日本フォーラム編集部

2013年8月、集団的自衛権行使の容認に向けた有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇、座長・柳井俊二元駐米大使)」がまとめた報告書において、「自衛権についてポジティブリストからネガティブリストへの転換」が提言された。作戦遂行時のポジリストとは「原則禁止、一部許可」という法制であり、一方、ネガリストとは、「原則許可、一部禁止」という法制の違いがある。安保法制懇メンバーは、「ポジリストが自衛隊の行動を制約し、任務遂行の障害になっている」との認識を示しており、「市民への加害」、「捕虜虐待」などの国際法禁止事項以外の行動は可能にすべきだと主張している。

この原因は、自衛隊の前身であった警察予備隊が当時採用した警察組織の法制を踏襲しているためだと考えられる。自衛隊設置法の段階から、できる任務・所掌事務が細部にまで定められていることからポジリスト法制となってしまっている。国民の権利・義務を守る警察は国内法で規定されている。敵国を相手に防衛行動で対応する自衛隊は、国際法で禁じること以外は行動の自由が確保されるべきという見方もあろう。

例えば、カンボジアPKOに派遣された施設大隊に「国道4号線の整備を行え」という命令が下されたとしよう。これを受領した指揮官は、隣接する国道3号線の整備を行っている他国からの支援依頼には応じることができない。また、近隣の任務地で行動する他国の部隊からの機材の借用依頼に対しても応じてはならない。なぜなら、他国への支援や機材の貸与はポジリストに示されていないからである。これらはPKO任務の一場面での想定であるが、国家防衛などの有事の戦闘行動の場面で、相手がいるのに「これしかできない」では勝負にならない。軍隊の武力行使においては、警察のような自制的な縛りではなく、相手を撃退するために必要な全ての手段を用いなければ、勝利を収めることはできない。

2014年5月26日、参議院議員の浜田和幸氏は、参議院議長に対し、「防衛法制における『ポジリスト』、『ネガリスト』に関する質問主意書」を提出している。質問の要旨は、(1)日本の防衛法制が『ポジリスト』方式であると政府は認識しているか、(2)防衛省防衛研究所紀要第十巻第二号の『軍の行動に関する法規の在り方』において「自衛隊の対外的作用については、国内法上の根拠規定がなくても国際法の許す範囲内で行動できるものとし、ネガリスト方式への転換の検討の必要性がある」との研究者個人の論文が発表された。これを防衛研究紀要に掲載することは防衛省設置法第4条第18項で定める『所掌事務の遂行に必要な調査研究』の一作用であると思われる。これを自衛隊の対外的作用と見なし、ネガリストもしくはこれに準ずる法整備を行うべきだと思われるが政府の見解を示されたい、というものであった。

これに対し、2014年6月3日に発表された政府の答弁書は、(1)自衛隊法は『ポジリスト』であると認識している。(2)今後、関連の研究を進めていくこととされており、質問への回答は困難である、としており、とネガリストや法整備などへの対応について明言が避けられた。残念ながら、安倍内閣は、ポジリスト法制の問題点こそ認識しているが、現状の法制を変更するつもりがなかったようである。

国会で、「PKOに持っていく機関銃を1丁にするか2丁にするか」が議論されたことがあったそうである。現場での専門性の高い軍事的判断については、状況に応じた対応が可能な現場に任せるべきであろう。国会の使命は、シビリアンコントロールが機能する仕組みや規則を作り、現場の指揮官が軍事的合理性に基づいて行動できる環境を整えるというものであろう。

8月26日、南シナ海に中国の弾道ミサイルDF21、DF26が4発発射され、米軍の南シナ海における動きをけん制した。また、我が国固有の領土である尖閣周辺では、8月に入り、中国の公船による接続水域への入域がのべ84隻、領海への侵入がのべ10隻を記録した。一方的な力による現状変更の動きに対し、米国を中心とした日豪印、ASEAN諸国との対立が顕在化してきている。我が国には、あらゆる不測事態に対応できる法整備、体制作り、そのための各国間の調整などが求められており、中でも防衛法制のネガリスト方式への変更は重要度が高いと考えられる。

実業之日本フォーラム編集部

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