かつて「フラジャイル・ファイブ」という言葉が流行った。これは、ファンダメンタルズが脆弱であったブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカという5つの新興国を指す言葉である。インドネシアの外貨準備高の水準は短期対外債務残高の2倍を上回っていることから、インドネシアの外貨準備高の水準を不安視する向きはそれほど多くないと見られるが、2020年3月のコロナショックの際にはルピアも大幅下落を余儀なくされた。
「フォーリンエンジェル懸念が高まるインド」で紹介したインドも、今回紹介するインドネシアも経常収支は赤字である。もっとも、インドの経常収支赤字の主因は貿易赤字であるが、やはり恒常的な経常赤字を続けるインドネシアの貿易収支は若干の黒字を維持している。貿易収支の内訳を見ると、石油ガス貿易は純輸入の状態にある一方、非石油ガスの貿易は純輸出の状態が続いている。かつてのインドネシアは石油ガスの輸出国であったが、経済の拡大を受けて純輸入国に転じた。石油ガスの純輸入と非石油ガスの純輸出で貿易収支のバランスは取られているが、石油収入だけで十分な外貨を稼ぐことは難しくなったとも言えるだろう。
一方、第一次所得収支の赤字幅が拡大していることが経常赤字構造の主因である。これは、2010年以降の対内直接投資の急増や対内ポートフォリオ投資の拡大を受けて、配当金や債券の利払いが増加したことによる。ルピアの高金利が海外からの資本流入を促していた面もある。2010~2019年の平均では、対外直接投資が141億ドル/年の純流入、ポートフォリオ投資は151億ドル/年の純流入であった。直接投資、ポートフォリオの双方ともに、対外投資は限られており、対内投資が圧倒的に大きい。2007年頃まで緩やかな増加にとどまっていた対外純負債も、2009年以降に拡大し、過去10年間では484億ドルの増加となった。かつてのインドネシアは対外債務の膨張による金利負担が経常赤字の一端を担っていた。アジア通貨危機を経て経済構造は大きく変わったはずだったが、所得収支の赤字で経常赤字から脱却できないという点では、先祖返りしてしまったようにも見える。
(株式会社フィスコ 中村孝也)