一般的に、為替の決定要因としては、経常収支、金利差、マネー供給量、財政など経済・通貨政策への信頼性、政治・安全保障上の安定性、などが指摘されることが多い。2015年からの5年間で、日本は米国に対し62.9兆円の経常黒字を計上している。基本的には円高ドル安要因であるが、足元では日本の貿易収支は赤字であるので、円安要因として意識されやすい可能性は考えられる。5月までは、日米金利差の縮小、M1またはマネタリーベース伸び率格差の拡大といった米国側の要因で円高圧力が上昇していた。6月に入ると、M1またはマネタリーベース伸び率格差が縮小し、やや円高圧力が弱まったと見られる。
日米金利差の為替説明力は高い時期もあったが、やや薄れた感も否めない。日本の金利がほぼ動かない中で、利下げ余地のある米国において利下げが進行したため、日米金利差は大きく縮小したが、ドル安円高はほとんど進まなかった。一方、日米実質長期金利差と為替レートは、乖離はありながらもほぼ連動しており、日米実質金利差は、中期的に見るとドル円相場に影響してきたと考えられる。足下、日銀、FRBがゼロ金利政策を採るなか、期待インフレ率が実質金利を左右する可能性がある。仮にこのまま景気が緩やかに回復していけば、おそらくは米国のインフレ率が先に上昇し、実質金利差の拡大からドル安円高となる可能性も考えられるだろう。
もっとも今年に入ってからは、コロナショックが多くの国に同一方向での経済的な影響を与えている。必然的に、多くの国で金融政策、財政政策の方向性は似通いがちである。このような状況を念頭に置くと、為替相場の決定要因も、異なった方向性を持ちうる政治的要因による影響力が増す可能性が考えられるだろう。そういった観点からも、中対などからくる政治の不透明感には注意が必要である。
(株式会社フィスコ 中村孝也)