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2020.07.02 外交・安全保障

アメリカ対中制裁法案で中国国有銀行への金融制裁リスク

中村 孝也

国家安全法と香港の事業環境」では、香港に中期的懸念こそ強いものの、足元で動揺が少ない点を報告した。預金動向を見る限り、全人代直後については、香港からの資金流出傾向を確認できないようだ。5月末の香港の預金残高は前月比0.3%減少となった。米ドル預金が0.9%減と比較的大きな減少を示したが、急減にまだ程遠い印象である。2019年8月に香港ドル預金残高が前月比1.6%減少した際には、多くのメディアが「社会情勢の悪化で資金逃避が生じている」と報じたが、こちらは0.1%増となっている。一方、過去1年間で大きく残高を積み上げたシンガポールの外貨預金残高は、5月末で前月比0.6%減と比較的大きな減少を示した。

ただ、6月30日に香港国家安全維持法が施行され、逮捕者は約370人に上ったと報じられており、現地の情勢は厳しさを増している。また、6月30日付でブルームバーグは「120兆円近い中国4大銀行のドル資金にリスク−米国の対中制裁法案」という記事を掲載した。米上院が先週可決した対中制裁法案が成立すれば、中国国有の4大銀行が抱えた1.1兆ドルのドル債務が危険にさらされるという内容である。この法案は金融機関に制裁対象となる当局者への口座提供を禁じるものだが、こうした当局者の多くが中国の大手銀行を利用していると想定され得ると指摘し、制裁違反と認定された銀行は、米国の金融システムへのアクセスが断ち切られる可能性があるとの見方を示している。

アメリカは「中国の香港に対する義務違反に対して著しく貢献する個人や組織」と大規模な取引をする銀行に処罰を検討しているとも報じられている。つまり香港の自由を侵害したものと取引する銀行に制裁を加えるということである。過去においてもアメリカは、イランや北朝鮮など敵対する国に協力してきた銀行に制裁を行なってきた。米下院共和党調査委員会の「国家安全保障戦略報告書」では、香港事務を担当する最高指導部の韓正氏、国務院香港・マカオ事務弁公室の夏宝龍・主任、中央政府駐香港連絡弁公室の駱恵寧・主任を、人権侵害・弾圧行為を処罰するグローバル・マグニツキー法に基づき、制裁の対象にすべきと明示している。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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