世界的な債務拡大と世界的な低金利を背景に、リーマン・ショック以降のクレジット市場は大きく成長した。リスクの高いクレジット商品には、レバレッジド・ローン、ハイイールド債、非シンジケートローン/プライベート・クレジットなどがある。IMF(国際通貨基金)の「Global Financial Stability Report」によると、2019年末のレバレッジド・ローン残高は5.5兆ドル、ハイイールド債残高は2.5兆ドル、私募債市場は1.0兆ドルに上る。大雑把にいえば、16.1兆ドルのアメリカ企業の債務から、9兆ドルの高リスククレジット商品が生み出されたことになる。
上記のレバレッジド・ローンを証券化したのが「CLO」であり、資産担保証券の一種である。ローンの元利金を担保として発行される。リスクの高さに応じて、シニア、メザニン、エクイティにトランシェが切り分けられる。CLOは、運用難に喘ぐ日本の金融機関も積極的に投資してきたため、2019年10月の日銀金融システムレポートなどでも説明に重点が置かれていた。2020年6月の日銀レビューでも、日銀と金融庁による共同調査の内容が掲載されている。
CLOは「クレジットスプレッド」、「分散投資効果」と「信用補完」を活かした金融商品である。もっとも、リーマン・ショックの際と同様に、大幅な景気後退の際に想定されていた相関が機能するかについては、懐疑的な見方も少なくない。CLOの担保はほぼ全てがBB以下の投機的格付けである一方、それが10%弱のエクイティ、10%弱のBB以下のトランシェ、80%強のBBB格以上の投資適格のトランシェに再編されるという点にも、違和感(既視感)を覚える向きは少なくないだろう。
CLOの残高は7,600億ドルであり、レバレッジド・ローンの多くを保有する。間接的には、アジア先進国の大手銀行を含む国際的な銀行が世界のCLOの約1/3を保有しており、第2位の買い手は保険会社である。銀行は基本的にシニア部分を保有し、保険会社や年金はややリスクの高い部分を保有する。
リーマン・ショック後の世界的な景気拡大局面で、レバレッジド・ローンの質(格付け)は徐々に悪化していたと指摘されている。それを受けて、CLOの質も悪化傾向にあった。一方で、リーマン・ショック以前に組成された「CLO 1.0」との比較感では、リーマン・ショック以降に組成された「CLO 2.0」は、AAAトランシェを保護するためのクッションとして、エクイティとメザニン(A格以下)の比率が高めに設計されている。
前述のIMFレポートは、「レバレッジド・ローンの回復率は世界金融危機時より20%ポイント低いが、他は世界金融危機時と同じ」というリスクシナリオのもとで、クレジットの損失額を1.3兆ドル(損失率20%)と試算した。そのうちCLOの損失は2,000億ドルであり、残高の27%に相当する。それであれば、エクイティやA格以下のメザニンには影響が及ぶものの、AA~AAA格のトランシェには影響が及ばないと結論付けられている。
ただ、コロナショックを受けた相次ぐ格下げを受けて、レバレッジド・ローンを発行する企業の格付けも、相次いで引下げられた。AAのトランシェまでクッションが失われたCLOが登場したという報道もあり、徐々に津波が押し寄せつつある印象も否定しづらいところである。「AAA格のCLOはリーマン・ショック当時でもデフォルトを回避した」というのが投資家の支えとなっているが、コロナショックでCLOの商品性が本当に瓦解しないかが試される。
(株式会社フィスコ 中村孝也)