現状の油価水準が多くの産油国にとって厳しい水準であることは論を待たない。IMFによると、世界有数の産油国であるサウジアラビアの均衡原油価格は、財政収支ベースで78ドル、貿易収支ベースでは58ドルである。
サウジアラビアの財政収支は6年連続の赤字である。歳入に占める石油関連収入の比率が引き続き高いことに加え、イエメン内戦への関与やイランへの対応など軍事費の増加も大きく影響している。対GDP比で見た公的債務残高の水準は低いが、それでも過去数年で急速に増えており、2015年からは国内、2016年からは海外でも国債を発行している。中央銀行の政府準備金は資産・負債総額の過半を占めており、この部分は米国債を中心として運用されてきたと言われる。この政府準備金は、2014年の1.3兆サウジリアルから2018年に0.5サウジリアル(1,300億ドル)にまで縮小し、構成比も26%程度まで低下した。
IMFは、サウジアラビアの経常収支を2019年の対GDP比6.3%の黒字から、2020年に同3.1%の赤字、2021年に同3.4%の赤字と予想している。もっとも原油価格想定は、2019年が61.39ドル、2020年が35.61ドル、2021年が37.87ドルと、現状の油価を上回る。原油価格が20ドルという状況が続いた場合には、財政赤字、経常収支赤字とも、IMFの予想を上回るだろう。
そうはいっても、サウジアラビアのケースでは、過去の金融資産の蓄積は大きく、2018年の対外純資産は69兆円、外貨準備高は55兆円を抱える。原油価格が20ドルであった場合でも、外貨準備高は5年強の経常赤字をカバーできると見込まれる。ただ、産油国の金融資産の蓄積状況はまちまちで、例えばバーレーン、オマーンの外貨準備高は経常赤字の1年未満に過ぎないと試算される。
(株式会社フィスコ 中村孝也)