日本の緊急経済対策の事業規模は108兆円であるが、補正予算で措置される予定のものは25.6兆円にとどまる。この25.6兆円は、感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発が1.8兆円、雇用の維持と事業の継続が19.5兆円、次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復が1.8兆円、強靭な経済構造の構築が0.9兆円、新型コロナウイルス感染症対策予備費が1.5兆円、で構成される。
米国のCARES法が中小企業支援、特定企業への融資・支援金、FRBに対する損失補填、所得補償、失業保険の給付拡大、州・地方政府支援などで構成される点と比較すると、日本の経済対策は「次の段階の経済活動・構造」に目配せしているのが一つの特徴である。
「強靭な経済構造の構築」に割り当てられている9,172億円のうち、サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金として2,200億円が計上されている。サプライチェーンに関連して、海外サプライチェーン多元化等支援事業として235億円、サプライチェーン強靭化に資する技術開発・実証として30億円が計上されているが、前者は調査、後者は技術開発が目的であり、サプライチェーンの国内回帰を直接促進するものではない。
事業イメージとしては、特定国に依存する製品・部素材の依存度低減のための拠点整備、国民が健康な生活を営む上で重要な製品等の生産拠点等整備が挙げられている。4月8日から既に事務局による公募が始まっており、募集要項によると、対象は建物取得費、調査設計費、設備費等、補助率は大企業で1/2~2/3、中小企業等で2/3~3/4、中小企業等グループで3/4、上限額は150億円、想定管理件数は200件程度であることが示されている。
「サプライチェーンの国内回帰」は、3月5日に開催された未来投資会議で急浮上した論点であったが、早々に実装されたことになる。かつて本社機能の地方移転を促進するために導入された「地方拠点強化税制」の適用実績は、意図に反して極めて限られたものにとどまっている。ただ、コロナショックをきっかけとしたサプライチェーンの再構築は喫緊の課題であり、実際にどのように活用されていくかが注目されよう。海外からの注目度も高く、一見補助率も高いように見えるが、実際に活用されていく段階では2,200億円という規模感の妥当性も問われよう。また、海外での既存設備をどうするかという問題は、企業任せのようにも見える。
(株式会社フィスコ 中村孝也)