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2020.04.13 外交・安全保障

再拡大するECBのバランスシート

中村 孝也

コロナショックをきっかけに、世界の主要な中央銀行のバランスシートは再拡張の局面に入った。欧州でも3月18日の欧州中央銀行(ECB)理事会で、7,500億ユーロのパンデミック緊急買入計画(PEPP)が発表された。買入は3月26日から開始されており、3月末時点での買入額は154億ユーロ、4月3日時点では302億ユーロと、ECBのバランスシートが再拡大し始めている。

これまで実施されていた公的部門証券買入計画(PSPP)の買入額は3,600億ユーロであった。従来、国別買入額は発行残高の33%以内とし、国別購入比率は各国中央銀行によるECBへの出資比率が基準とされてきた。しかし、3月18日の理事会では「33%ルール」が適用されないこと、国別購入比率も柔軟に運用されることが公表されている。

コロナショックで信用格下げの引き下げが相次ぐ中、注目されているのがイタリアである。Moody’sはイタリア国債を投資不適格級の1段階上、S&PとFitchは2段階上としている。3月のイタリア国債の価格下落を受け、ECBも積極的な国債買入れを実施した。3月のPSPPを通じた国債買入額は373億ユーロであったが、イタリア国債の買入比率は32%と、出資比率を大幅に上回った(ちなみに残高ベースでは12%にとどまる)。イタリアの国債発行残高は2兆ユーロ、ECBの保有比率は発行残高の2割程度と見られる。

3月26日付ロイターは「イタリアは3月、250億ユーロ規模の景気支援策を承認。追加対策も合わせると2倍の規模になる可能性」と報じた。ECBによるイタリア国債の買入額は、従来の買入比率を参考にすれば1,050億ユーロ、3月の買入比率を参考にすれば2,400億ユーロと見込まれる。上記の景気支援策の規模感はひとまずカバーされそうであるが、欧州各国の財政政策が膨張する中、どこまでECBのバランスシート再拡大で吸収できるかが注目されよう。また、ECBの買入れの有無にかかわらず、格付けへの逆風自体が変わらないことは改めて認識しておくべきであろう。

なお、4月9日のユーロ圏財務相会合では、総額5,400億ユーロ規模の経済対策が合意された。欧州安定機構の与信枠を活用し、各国財政を支援することなどが柱となる。ただ、より大規模な対策資金を確保するためにイタリアやスペインが求めている「コロナ債」などと呼ばれる共通債の導入は、ドイツやオランダが反対姿勢を崩さなかったため、結論が先送りされている。「決められない欧州」という弱点が垣間見られるものとなった。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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